たわいない話
「紛らわしいからって、私の呼び名がアイからアンに変わったんですよね。それなら逆でも良かったんじゃないですか?」
ドラゴンの化身のアンが僕に言いつのる。
僕は今、ソファで本を寝転んで読んでいた所だ。その上にアンが覆い被さるようににじり寄ってくる。
近い近い!こいつはぱっと見美少女なんだから、余り近くに寄って貰うのは困る。なんとなく意識してしまう。僕は必死で変な所触らないように押しのける。こいつはギリギリノータッチの範疇だ。人外だし。
ん、押しのけるために触った肩が布の感触じゃない?なんかすべすべしてる。
「おい、お前、また服着てないんじゃないか?それ魔法の服だろ!」
「あ、ばれました?けど、私は進化して下着だけはつけてますよ、なんて言いますか、最近暑くなってきたじゃないですか、私、寒いのも苦手なんですけど、暑いのもダメなんですよ。最近、マイ姉様だってご主人様が居ない時は下着でウロウロしてますよ。現に今だって」
僕は何気なくマイを見る。マイもソファに寝っ転がって読書している。そういえば、最近マイはアンと同じような緑のワンピースを着ている事が多い。ということは……
「マイ、もしかして、お前も魔法の服を着てるのか?」
よく見てみると不自然だ。マイの着ているワンピースには服のしわが全く無い。
「ごめんなさいザップ、あたしも暑いのは苦手なの。だから、アンちゃんにお願いして幻の着衣の魔法教えてもらったの……」
なんと、僕は下着だけの美少女2人にいつも囲まれていたのか……
けど、見た目的には服を着ている訳で、なんか複雑な気分だ。
「まあ、それはおいといて、呼び名の話でしょ。そうね、それじゃ、逆でいってみよーか?じゃあ、アンちゃんはアイちゃんって呼ぶとして、あたしの名前はなんて呼んで貰えばいいかなぁ?」
マイは本から目を離して僕を見る。マイをマイ以外で呼ぶ?そんなの思いつかないな。必死で考えてもロクでもないものしか思い浮かばない。首狩り族とか猫耳娘とか……
「ザップー、なんか考えてみてよー。じゃあ、マイとアンだからマンとアイでいってみる?それともマイマイがいい?」
んー、『マン』って呼ぶのはなんか語呂悪いよな。かと言って『マイマイ』って僕が呼んだらなんかキモいしな。それに何か、西方語で『私のマイ』って言ってるみたいでなんかこっぱずかしい。西方語で一人称の変化型は確か、アイ、マイ、ミー、マインだったよな。
「それじゃ、ミーでいいんじゃないか?」
「え、ザップなんで知ってるの?あたしの子供の時のあだ名はミーちゃんだったのよ」
「たまたまだよ」
「じゃ、これから、あたしはミーで、アンちゃんはアイちゃんね、間違った人が今日のごはん当番ね!」
そして今日は僕がごはんを作る事になった。
よく考えてみると、マイとアンに比べて、僕が名前を呼ぶ回数が倍だよな。
やっぱりしっくりこないと言う事で、呼び方はもと通りになった。