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 新しいご主人様 後編


 ペチン、ペチン、ペチン。


 遠くから悪夢の音がする。裸足で存在を隠さない足音。猿人間様だ……


 ああ、私はなんでグズグズしていたのだろう。全力でブレスを吐いて疲れていたのもあるけど、命がかかっている時に何をしてたのだろう。幸いまだ足音は遠い。逃げられるはずだ。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。


 良く聞くと足音がもう一つ聞こえる。革か何かの靴を履いている。猿人間様よりも音の間隔が少ないから小柄な人物だろう。


 私は震えが止まらなくなる。あんな化け物がもう1人増えるということを考えるだけで、歯の根が合わなくなる。

 

 食べられる……


 このままいくと間違いなく私は食べられて、皮や鱗は猿人間様の新しい装備に成り果てる事だろう……


 私は考えを巡らせる。私の後方には前のご主人様の墓所がある。その先には私は行く事が出来ない。そして前方の猿人間様達の後には地上に向かう道がある。そこに向かうしかない。けど、私の体ではそこは通れない。


 まずは小さくならないと。


 迷わず『人化の法』を使う。みるみる私の体は縮む。

 そうだなんで早く気付かなかったのだろうか。猿人間様は人語を使われていた。さすがに同じ人間を食べたりはしないだろう。


 む、私は自分の体を見渡す。胸部に意外に大きな膨らみが。前はもっと小さかったんだけど、私も少し大人になったんだな……人間の男はコレが大好きだと聞いた事がある。違う意味で食べられるのも嫌なので、私は魔力で服を作る。


 そうこうしているうちに、猿人間様が近づいて来た。こういう時にはどうしたらいいか、前のご主人様に聞いた事がある。


「勘弁してください!」


 私は猿人間様の足下に駆け寄り、膝をつき頭を地面に擦りつけた。これは土下座というらしい。頭を踏みつけてもいいですよという恭順を示す最上の礼だと聞いている。

 よもや、最強の種族であるドラゴンの私がこういう事をするはめになるとは……

 けど、ドラゴンだって生き物なんだから命は惜しいです。


「お願いです。無理矢理ださせたり、固い棒でつつくのは止めてください」


 私は顔を上げて、猿人間様にお願いしてまた地面に額を押し付ける。恐怖で体の震えが止まらない。


「え、服を脱いで、女の子に会いに行って、無理矢理ださせて、固い棒でつつく?」


 猿人間様の後から若い女性が現れる。見た目は私より少し上に見える。15才前後ではないだろうか?猫耳で華奢でそれを見て私は安堵する。強く無さそうだ。その女性は猿人間様の方を見て腰に手を当てている。なんか怒ってるみたいだ。どうしたんだろう?


「ザップ!どういうことよ!女の子になにしてたの!」


 女性の顔が紅潮し、その怒気が爆発する。私は先ほどの考えを撤回する。人を見た目で判断するものじゃない。辺りの気温がみるみる下がる。

 やばい、多分彼女は獣人の中でも1番厄介なフェンリル族だ。まだ生き残りがいたとは……冷気を扱うのに長けた彼らは私達ドラゴンの天敵だ。この怒気から彼女も猿人間様と同様に間違いなく私より上の存在だと確信する。相性からして彼女様の方が私には恐ろしい存在だ。


 それと猿人間様の名前はザップ様というのか、間違えないように頭で繰り返し呟いてその名前を心に刻み込む。


「怒らせたのなら、すまない。俺にもなんのことだかすっかりわからない」


 ザップ様は猫娘様に頭を下げる。やはり猫娘様の方がザップ様より立ち位置が上なのか。格好からしてザップ様は猫娘様の奴隷なのかもしれない。それならばザップ様の口調はおかしいような。


「そこのあなた、ザップになにをされたの?」


 私はビクンとはねて、猫娘様に即座に答える。多分私の命運は彼女様が握っている。


「私が寝てたら大きな音で起こされて、行って見てみたら、この人が裸で暴れてたんです。怖くなって、口から吐いたあと、頭を棒でたたかれて、変な液体をたくさんかけられました…そのあと、口からだせだせと棒で小突かれて、最後は口に入れたくないのに無理矢理食べさせられました……」


 私はその時の事を思い出し、恐怖で涙が溢れる。竜族の誇りを忘れ気が付くと私は幼子のように声を上げて泣いていた。


「そんなことした覚えは全くない、そもそもこいつとは初対面だ!」


 ザップ様が猫娘様に少し声を荒げる。


 けど、猫娘様は汚いものを見るような冷たい目でザップ様を見ている。弱い者虐めを咎めてくれてるのだろうか?


「そうは言っても、この娘、本気で泣いてるわよ、ねえあなた、あなたにひどいことしたのは本当にザップなの?よく見て」


 私は顔を起こしザップ様を見る。体の奥底から何かが溢れ私はガタガタと震え始める。


「ごめんなさい、許して下さい、この人です。いや、このお方です」


 駄目です。正視出来ない。私は我慢出来ず、また地に頭をつける。


「可哀想に、こんなに怯えて……」


 猫娘様の足音が私に近づく。その暖かい手が背中に触れて優しくさすってくれる。


 安堵からか、私の目からさらに涙が溢れる。


「生は、生はいやだったのに……」


 ヘルハウンドを丸呑みしたことを思い出して私は猫娘様にすがりつく。


「ザップ!説明して!どういう事か!」


 猫娘様の怒声が響き渡る。ザップ様の狼狽えた姿が印象的で、後にも先にもこれほどザップ様が怯えた姿は見た事がない。



 どうも猫娘様は私とザップ様がなんかエッチな事をしてたと勘違いしてたみたいで、この後私がドラゴンの姿を見せる事でなんとか誤解がとけた。



「じゃ、あたしたちと一緒に来ない?」


 猫娘様が私に微笑みかける。綺麗だ女神様みたいだ。


「何言ってんだ!」


 ザップ様が嫌そうな顔をする。けど、多分主導権があるのは猫娘様だ。


「え、そうですね、別にする事ないしいいですよ」


 なんだかんだで、私の直感がこのお二人はいい人だと告げている。ついて行って悪い事はないだろう。それにお二人とも私より強いし、いざという時は私を守ってくれそうだ。


「じゃあ、マイについて行け、俺は一人で行く!」


「ザップ、お肉裁けるの?料理つくれるの?もしかして固くて臭いお肉が好きなの?」


「うっ!」


 猫娘様はザップ様を見て小首を傾げる。これって何ていったかな?そう、かかぁ天下?


「ここにいる間だけだ……」


 やっぱりザップ様は猫娘様に頭が上がらないみたいだ。


「やった!ありがとう、ザップ!」


 猫娘様が抱きつこうとするのを、ザップ様は頭を押さえて制する。なんか、謎な関係だな。夫婦じゃないのかな?


「では、新しいご主人様、しばらくの間よろしくお願いします」


 こうして、私と新しいご主人様のザップ様と猫娘様改めマイ姉様との旅が始まった。

 ご主人様は始めは怖かったけど、実際はとても優しく、ご主人様なのに戦闘の時以外に私に命令する事はほとんどない。

 マイ姉様は優しいけどときには厳しく、何よりも素晴らしいのが美味しい食べ物をたくさん食べさせてくれる。

 仲間と言うより新しい家族が出来たみたいだ。

 ずうっとこの楽しい時間が続いていきますように。



      ~新しいご主人様~ fin



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