ミノタウロス王のハンマー
昔の回想です。説明不足という声が多いので、補足です。
「ザップ、なんでザップはそんなにハンマーが大好きなの?」
朝の日課の素振りをしたあと、愛用のミノタウロス王のハンマーを布で磨いている僕に、マイが話しかけてきた。
「別に好きな訳じゃない。俺はこれしか扱えなかったんだよ」
僕は昔の事を思い出す。原始の迷宮で1人ぼっちで戦っていたあの時の事を。
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僕は薄暗い迷宮の中を歩いている。ミノタウロスのいた階層から上に上がって最初の部屋ではヘルハウンドの群れに襲われた。怯えていたのと焦りでドラゴンブレスを打ち捲ってなんとか倒す事が出来た。
けど、このままだったらここから生還出来ないだろう。収納の中のドラゴンブレスには限りがある。それが無くなるまでになんとかここらの魔物と戦えるようにならないと。
立ち止まって収納の中から拾ったミノタウロスの武器を出してみる。斧とハンマーがあるが、どれも両手で何とか持ち上げるだけでやっとだ。こんなのを片手で安々と振り回していたミノタウロスの事を思い出すと戦慄が走る。
まずは斧を両手で振り上げて降ろす。
ガコッ!
大地に斧を振り下ろす事は出来たけど、刃が地面に当たり逸れて僕は体勢を崩す。しかも右手首を捻ってしまう。駄目だ。上手くいけば殺傷能力は高いけど、まっすぐに振り下ろせないから刃を突き立てられ無さそうだ。収納からエリクサーを出して右手首を治療する。
斧を収納にしまって、次はハンマーを試す事にする。ハンマーは3種類ある。1つ目は柄に立方体がついていて柄のついている面以外には大きな刺がついているやつ。2つ目は金属の筒みたいなのに柄がついた大工とかの工具を大きくしたようなやつ。そして大きな刺がついた鉄球に柄がついたやつ。
僕は迷わず鉄球のついたハンマーを選んだ。これなら振り下ろした時に軸がぶれても重さののった打撃を加える事ができるのでは?
持ち上げて振り下ろす。
ゴンッ!
重い音をたててハンマーは地面にのめり込む。衝撃で腕が痺れる。少し刺のおかげで当たったあと流れるけれど、斧ほどではない。もう一度持ち上げようとするが、僕の両手は言うことを聞いてくれない。2回、たったの2回の素振りで僕の両腕はパンパンだ。やっぱりこの武器を使うのは無理なのか? 諦めて武器を収納にしまう。
収納?
そうだ、収納が僕にはあるじゃないか!
鉄球のハンマーを可能な限り高い位置に出して、その柄を掴み大地に叩きつける。
ドゴンッ!
ハンマーは地面にのめり込む。衝撃で両手が痺れる。
これだ、これなら行ける。
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「グルルルルッ」
ヘルハウンドは僕を睨みつける。僕も負けじと睨みかえす。
「ガアッ!」
ヘルハウンドの放った火球を収納に入れる。
ヘルハウンドは満身創痍だ。接近戦を挑まれるたびにその体の上に収納からミノタウロスの武器を出して落としてやった。奴は素早いけど、何とかそのスピードにも慣れてきた。
「ガウッ!」
ヘルハウンドは跳躍すると僕の方に飛びかってくる。
ここだ!
ここで決める!
落ち着いてヘルハウンドの着地点を見据えて、ギリギリの所でその頭上にハンマーを出して柄を掴み思いっきり叩きつける。
「ギャウン!」
上手くいった!
ヘルハウンドの頭はハンマーと床に挟まれる。
まだだ!
僕はハンマーを収納にしまうと、また奴の頭上に出現させて叩き落としてやる。それを2度3度、奴が動かなくなるまで繰り返す。
「シャアアアアアアーッ!」
僕は両手を天に突き上げた。
ヘルハウンドの死骸を収納にしまう。収納から出したミノタウロスの腰巻きでハンマーについた返り血などをしっかりと拭ってハンマーも収納にしまう。
しばらく休んだあと、僕は次の獲物を求めて歩き始めた。