それぞれの生活
朝起きて、日課の素振りで体を慣らし汗を流し、そのあと朝食をとってラパン先生との魔法の勉強。そしてマリアさんのお店で昼食をとって夜まで読書。そしてまたマリアさんのお店で晩ご飯を食べて夜まで読書、そしてお風呂に入って寝るという読書三昧の日々を送っている。
僕は決して頭が良くない。
ここしばらくを振り返って1番の反省点は浅慮浅薄無知蒙昧な僕自身の在り方だ。
「なぁ、ジブル、どうやったら頭良くなるんだ?」
この前の打ち上げで僕はジブルに尋ねた。僕達の中で1番の知者は彼女だと思う。アナーキーなスケルトンだった彼女の事は忘れる事にした。
「そりゃ、私を娶ったらもれなく私の魔道都市アウフが誇る英知がついてくるわ。頭が良くなる必要なしっ!むしろ馬鹿でよしっ!」
酔って赤い顔をしたジブルは人差し指をビシッと立てる。結構きまってるのではないか?
すぱーん!
「ジブル、今日は抜け駆け禁止でしょ。また骨に戻りたいのかしら!」
どこからともなく現れたマイがジブルの頭を引っぱたいた。物騒だな、抜け駆けって何の事だ?
「マイさん、冗談ですよ。ザップさん、本を読みましょう。本を読んだら賢くなれるわ」
それから僕は半信半疑ながら本をしこたま買ってきて読み始めた。程なくジブルの言葉は真実だと悟った。
僕はこれからのために勉強ライフを送っている訳だけど、他のみんなはどうしているかと言うと。
少女冒険者4人は迷宮都市で残ったポータル潰しをしている。なんか尻ぬぐいをさせているようで少し悪い気もする。たまには僕達の家にも来るけれど、しばらくは迷宮都市で修行するそうだ。
魔王リナと人魚姫ナディアは魔領に帰って行った。魔領では残りの四天王3人に軍を動かさせたので色々やる事が多いそうだ。因みに、もし僕達が黒竜王に敗れたら魔王軍は国境を越えて魔道都市に攻め込む算段になっていたそうだ。危ない所だった。戦争になるとこだった。忙しいと言ってる割には、リナはちょくちょくザップハウスにやって来る。ときどきナディアもついて来る。
大神官シャリーはうちに居着いている。マイに完全に餌付けされたみたいだ。あと神官衣を着る事はなくなって、貴族のお嬢様みたいなやたら高そうな服を着て高価なアクセサリーを身に着けている。なんか、妹が非行に走ったみたいだ。
「シャリー、聖教国に帰らなくていいのか?」
「聖教国?ナニソレあたしはこの国の人間よ」
マイやアンやラパンと遊びまくっているうちに聖職者的な質素倹約は忘れてというか捨て去ってしまったみたいだ。
ラパンはシャリーとマリアさんのお店で週末は働きながら、平日は冒険者として腕を磨いている。妖精ミネアもその金魚のフンだ。
ドラゴンの化身アンは相変わらずゴロゴロ自由に生きている。僕と読書したり、冒険者ギルドで依頼を受けたり、マリアさんのお店を手伝ったりしている。なんか最近若干太って来たように見える。
そして、マイは僕の面倒見てくれたりしながら冒険者をしている。空いた時間は僕と一緒に読書したり、マリアさんのお店を手伝ったり、料理の開発とかもしている。なんか最近2人っきりになると距離が近いような気がする。
そんなこんなで、ゆっくりと時間が過ぎていく。
お金には困ってないので、しばらく平和を満喫したいと思う。
僕は強くなったと思う。けど、どんなに強くなってもその使い方が解らなかったらまた窮地に陥るかも知れない。知恵と言う名の力を手に入れるため、今日も読書。どっか学校で学ぶのも良いかもしれないな。
「ザップー!」
マイの声がする。窓を開けると僕に手を振っている。隣にはアンもいる。
「今日はアンちゃんと王都に行かない?」
そうだな、新しい本も買いたいし行ってみるか。
「わかった!行くぞ」
僕はザップハウスから駆け出した。