第三十一話 荷物持ち挑発する
僕は気楽に通路を進む。音をたてても気にならない。多分この前にいるのはドラゴンのみで、気付かれないようにというより、むしろ気付いて欲しい。
ほどなくして通路は終わり広間に出る。ハンマーを握り壁を叩くが思ったより音がしない。これでは駄目だ。
両手が塞がるのはよろしくないので、手頃なミノタウロスの斧を収納から出して、壁に立てかける。そして、それをハンマーでガンガン叩く。
キーン! キーン! キーン!
位置を調整して、一番音が出る場所を探りあてる。
ギーン! ギーン! ギーン!
結構やかましいはずだ。部屋の奥を見るが何も起こらない。鈍感な奴だ。それとも警戒してるのか?
キーン! ギーン! キーン! ギーン!
不愉快な不協和音が鳴り響く。
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
地面が揺れる。遠くから、小山のようなドラゴンが走って来る。
かかったな! もういいだろう。収納に斧をしまうと通路の入り口ギリギリでハンマーを構える。一応戦う意思表示をしないと、待望のブレスを吐いてくれないかもしれない。
心が妙に落ち着いている。最初に見た時のような恐怖を感じない。ミノタウロスや、ミノタウロス王との戦いで、僕は少しは成長したようだ。
「グオオオオオオオーッ!」
巨大なドラゴンは僕と距離をとり、天に向かって咆哮をあげる。前の遭遇では、僕の気勢をそいだその叫びも、今の僕にはただの奇声にしか感じない。
僕はじりじり後ずさり、通路の中に入る。ドラゴンは巨体を揺るがしながら前進し、首を下ろし僕を見る。綺麗な澄んだ目だ。もしかして知能があるのでは無いかと思わされる。
それもつかの間、ドラゴンは口をあけ、その中に光が渦巻く。
きたっ!
ドラゴンの口から吐き出された炎が僕に迫る。左手を突き出し収納にしまう。
やった!
前と違って、後ろにもらすことなく、全ての炎が収納に吸い込まれていく。レベルアップして、前より収納出来る距離と範囲が増えている。
周囲が熱くなるが耐えられない事はない。腰巻きを脱ぐ必要なかったな。ハンマーを放してエリクサーを出そうと思っていたが、不要のようだ。長い長い時間が過ぎ、ブレスは終わりを告げる。
ドラゴンが息を吸うのが見える。もしかして、チャンス?
僕は飛び出し、ハンマーでドラゴンの額の下の方を強打してやる。昔、そこは全ての生き物の弱点と聞いた事がある。ハンマーが思ったよりもめり込んだ。
「ギャオオオオオオーッ!」
ドラゴンは頭を持ち上げのたうちまわると、大きく横に倒れ込み、痙攣して動かなくなった。
「え……」
僕の口から間の抜けた声が漏れる。
もしかして、やってしまったのか?
新作始めました。すこし下品です。よろしくお願いします。新作と言いましても、書き直しなのですが。
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