朝焼け
塔の屋上で朝焼けに照らされながら、しばし佇む。僕たちはまだ、穴の中なので見上げるような形だ。もうすこしで日が昇る。やっと長かった夜が明ける。
僕の右手をマイがぎゅっと握る。僕も握り返す。いつの間にか、利き手を許すほど僕はマイを信頼してたみたいだ。
「多分、終わった。後始末しないと」
「うん」
マイは僕の手を離す。
塔のまわりは僕が掘った深い穴が空いている。収納からありったけのポータルを出して、収納した土砂をまき散らす。朝焼けにに照らされて、まるで炎をまき散らしているようだ。
「綺麗ね、花火みたい。子供の頃に見た」
花火、もう長い事見てない気がする。花火を見に行くのもいいかもな。しばらくはゆっくりして、色々楽しむのも悪くない。バタバタしてたからな。
「花火か、どっかでやってたら見に行きたいな」
全力で土砂を出したので、程なくして穴は埋まって塔の屋上まで達した。
どうしよう、周りの大地はまいた土砂なので、柔らかいと思われるので踏み込んだら生き埋めになりかねない。
「ザップ、穴の縁まで跳ぼうよ」
マイが僕の躊躇いを察して口を開いた。
「よし、やるか」
僕達は、塔の屋上から助走をつけて穴の縁まで跳ぶ。さすがにここで失敗はしないだろう。
「とうっ!」
僕たちは助走をつけて跳び、僕もマイも無事着地した。
「ご主人様ーっ!」
穴の縁では頭に角を生やした少女が待っていた。体には僕とお揃いのミノタウロスの腰巻きを装備している。ドラゴンの化身、僕の信頼する仲間のアンだ。よかった少しは一般常識を学んだようだ。今は裸ではなく、しっかり隠すべき所は隠している。
「ご主人様、塔から跳んできて、『とうっ』はベタ過ぎるでしょ。面白くもなんともないですよ」
あ、僕は無意識だったので、顔が少し熱くなる。
「何いってやがる。そんなくだらない事考えてないわ。たまたまだ、たまたま!」
「まあ、そういう事にしておきましょう。それはそうと、マイ姉様、凄かったんですよ『ザップに置いてかれた。ザップに置いてかれた』って、大丈夫だからって止めるのを聞かずに突っ込んでったのですから」
アンがにやけながらマイを見る
「アンちゃん、ご飯抜きね!」
マイはふくれる。可愛い奴だな。
「まあ、私だって心配してたですけど、ご主人様ですからね、大丈夫って信じてました。それに、マイ姉様、久しぶりにご主人様と2人っきり、しかも暗闇だったんじゃないですか? なんかありましたー?」
「なにもあるわけないじゃない!」
マイはさらに真っ赤になる。いかん、これは僕がマイに何かしたみたいではないか?
「アン、何もなかった。ただ手を繋いだだけだ。それよりも、残りも埋めるぞ」
僕は強引に話を逸らして、残りの土砂を穴に一気に積み上げた。