マテリアルワールド
「ミネアーッ!」
つい僕は叫んでしまう。ミネアの使った魔法、マテリアルワールドは範囲内の全ての魔法効果を打ち消し、しばらくの間、魔法、スキルを使用不可にする。存在自体が魔法によるものであるミネアにとっては自殺行為であるはず。
溢れ出た光に呑み込まれそうになったミネアの体をラパンが掴む。ラパンは離脱しようとするけど、光の膨張スピードはかなり早い。
「アダマックス!」
ラパンの声が響く。そして、ラパンとミネアは光に包まれる。『アダマックス』というスキルがミネアを守るものなのか?僕は光に自分が包まれる前に、咄嗟に自分の愛用ハンマーを収納にしまう。
そして、辺りの全ての存在は光に包まれていった。
「うおっ!」
僕は何かに勢いよく突き飛ばされて大地に叩きつけられる。何が起こったか確認すると、アンだ。アンがドラゴン形態に戻っている。ああ、そうか、アンは魔法で人化しているから、それが解けたのか。
白い光の粒子に包まれた辺りを軽く見渡し確認する。
ラパンは手に銀色の何かを持っている。ミネアだ。ミネアは銀色のメタリックなものに変わっている。何が起こってるのか、『アダマックス』って何か興味が湧くが、それは後だ。
黒竜王は回復が止まりボロボロの状態だ。そして、その周りには裸の人間達が投げ出されている。アカエル大公や王と王妃とジブルの同僚だろう。仲間達に回収させる事が頭をよぎるが、それよりもアンに頼んだ方が早いな。
「アン!黒竜王をぶっ飛ばせ!周りの人達を潰すなよ」
「グルルッ!」
僕の言葉にアンは嬉しそうに喉を鳴らして答える。
ブグジュ!
ドラゴンのアンが黒竜王に体当たりする。ぶちあたった瞬間、腐った果実が潰れるような嫌な音がする。黒竜王のアンが当たった所は凹みドロリとした血のようなものをまき散らす。そしてそのままアンは黒竜王を押していく。
ドラゴン達に向かって駆け出した僕は仲間達に向かって声を張る。
「倒れてる人達を避難させろ!」
「ザップ、りょーかい!」
マイが僕に答える。まだ、なにか起こっているか理解は出来てないだろう。
倒れていたマイとシャリーと冒険者4人は立ち上がり、ふらふらと立ち上がったアカエル大公達とドラゴンたちの間に割って入る。
「お父様、お母様、それにお兄様!」
ラパンもそこに加わる。
振り返って見ると、リナとナディアは倒れたまま起き上がらない。
「リナ、大丈夫か?」
「大丈夫だ!力が入らないだけだ!」
大丈夫で何よりだ。けど、リナの声は心なしかいつもより小さい。ミネアの魔法の効果を受けているのか?
10秒はあっという間で、光の靄は消え去り辺りは闇に戻る。
「ルル、頼む!」
「りょーかい!光よ!」
ルルの魔法の光で辺りは照らされて、僕は再びハンマーを収納から出して、2体の竜の下に走る。