止まった世界
あと数話で第二章が終わります。上手く言葉にならなくて遅遅としてますけど、よかったらお付き合い下さい。若干内容変更してます。よろしくお願いします。
「最後のチャンスだ。ザップ、私に従え」
アカエル大公の顔が肉塊から隆起してドラゴンの顔が形成される。
「俺の答えは、これだ!」
僕はハンマーを振りかぶりそのドラゴンの頭を叩き潰す。
「死にやがれ!」
僕は息をつかず、一気に黒竜を責め立てる。ハンマーが当たるたびに、削られた肉片が飛び散る。削った跡はすぐに盛り上がって来るが、僕の攻撃の方がそれに勝っている。
なんでこうなった?
考えのなさ、計画性のなさ、油断、情報不足。色々な事が頭をよぎる。強くなったと勘違いしていた。強くはなったけど、物理的な強さは戦いにおいて一要素でしかない。戦いは遊びではない。慎重に慎重を期して勝てる戦いしかしちゃいけないんだ。
僕は怖い、また、石になったり記憶を失ったり、最悪死という言葉が頭をよぎる。
「うおおおおおーっ!」
何も考えるな、ただ目の前の敵を倒す。湧き上がる肉塊をただただ叩き続ける。
心が恐怖に染まりかける。動き続けた体が少しづつ重くなる。
「残念だな、ザップ……」
肉塊の一部にアカエルの顔が生まれる。
「黙れ!」
即座にハンマーで叩き潰す。
まずい、僕の攻撃のスピードと肉塊の再生が拮抗していて、肉塊の大きさが変わらない。嫌な考えが頭に浮かぶ。再生能力は一定だけど、相手が小さくなったら再生する場所が減って面積あたりの再生スピードが増すのでは?それじゃ、削れば削るほど再生スピードは上がっていく。無理だ、無理なんじゃ?
「うおおおおおおおおおおおおおーっ!」
叫びと怒りで恐怖をごまかして、さらに叩く、叩く、叩く!
しばらく再生スピードを上回り肉塊を削り続けたが、やはり減るほど再生が早くなる。心臓が痛い、体が重い、けど、折れるな!
マイ、アン、リナ、仲間達を思い浮かべる。僕が、僕が何とかしないと!
失ってたまるか!
「グゥァアアアアアアーッ!」
悲鳴か叫びか解らないものを上げながら残った全ての力を振り絞る。
頼む!
頼む!
倒れてくれ!
願い虚しく、肉塊は再生していく。徐々に大きくなっていく。
収納から出せる限りポータルを出して、アンのドラゴンブレス、リナの破壊光線を肉塊にぶち込む。最終攻撃、最大攻撃力のはずだ。肉塊に炎と光が吸いこまれていく。辺りは昼間のような明るさに包まれる。炎と光は大地を穿ち石つぶてと砂塵を巻き起こす。
しばらくして、全てを出し尽くすと、目の前にはおおきな水溜まりくらいの煮沸した溶岩溜まりみたいなものが出来ていた。10を超える炎熱攻撃の集中砲火の凄まじさに僕は若干戦慄した。
やった……
やったのか?
ゴポッ!
ゴポ!ゴポッ!
溶岩に浮かぶ石みたいなものが沸き立つような音をたてながら次第に大きくなっていく。
まじか、これでも消滅させられなかったのか……
僕は呆然としながら、それが膨れ上がるのを見つめる。
そして、アカエルの顔が浮かび上がる。
「ゴウワアアアアアーッ」
声にならない叫びを上げながらアカエルを叩く。
「終わりだ、ザップ」
叩き潰す直前アカエルの声がする。
僕に向けてゆっくりと白い光の矢が伸びる。
限界まで酷使した僕の体はもう動かない。
研ぎ澄まされて時間が伸びた感覚のなか、ゆっくりと光は僕に吸い込まれる。
「……………………っ」
背中で女の子の声がした気がした。何て言ったのか解らない。
体が動かなくなっていくのが解る。
ルルの魔法に照らされた、辺りの景色が色を失っていく、徐々に徐々に世界は灰色になっていった。
僕を生気を失ったアカエル大公がじっと見ている………