窮地
まだだ、まだ、黒竜王のダメージは回復しきってない。短期決戦で決めないと、シャリーの祝福が削られて無くなったらまた石になってしまう。
まずは走って、シャリー、ナディア、リナを収納に収容する。まずいな、石化を回復させる事が出来るシャリーを石にされてしまった。背筋に悪寒が走る。恐怖なのか?
マイとアンジュが果敢に黒竜王に襲いかかる。ドラゴン化したアンもそちらに驀進する。
ルル、ミカ、デルも黒竜王に近づく。ルルはラファをどっかに置いて来たみたいだ。みんな考えは一緒だ。やられる前にやるしかない。
マイとアンジュが前線でのべつまくなし切り刻み、ルルの爆炎魔法が黒竜王に突き刺さる。散発的に黒竜王の体から白い光の矢が放たれて、仲間達に吸いこまれていく。いかん、多分石化の呪いの魔法だ。光が当たる度に、仲間達を包む優しい金色の光が弱くなっていく。
僕はハンマーを手に飛び出して、黒竜王をなり振り構わず殴り続けてその動きを止める。
「ザップ下がって!」
マイの声が響き、僕は真横に跳ぶ。
そこで全員いったん離れて、ドラゴンアンが黒竜王に体当たりをかましてくる。
ゴゴッ!
岩がぶつかり合ったような固い音がして、2体の巨竜は激突した。若干アンの方が小さいが、パワーはアンの方が数段上で、黒竜王は吹っ飛ばされる。
「グォオオオオオオーッ!」
アンの口からブレスが放たれる。アンのブレスはしつこいくらい長い。黒竜王の鱗を焼き、肉を焼きついには胴体に風穴を開ける。
ここだ!
「食らいやがれ!」
僕は大上段にハンマーを振りかぶり跳び上がり、全身の筋肉をつかって黒竜王に渾身の一撃を叩き込む。
ドゴッ!
ハンマーは黒竜王の頭を叩き潰し、勢い余ってその身を引き裂く。
ドウッ!
黒竜王の巨体は大地に崩れ落ちる。まだだ、まだ足りない。
「アン!焼き尽くせ!」
「グルルッ!」
僕の叫びにアンが喉を鳴らして答える。
「グォオオオオオオーッ!」
僕は飛び退り、アンのブレスが再び黒竜王を焼く。しつこくかつ、首を振りながらまんべんなくアンは黒竜王だったものを焼いていく。
アンがブレスを吐くのを止めた後には、黒煙をあげながら燻る、炭化した肉塊が残るのみだった。
アンはドラゴンから緑ワンピースを着た人型になる。
「やったのか?」
僕は何気なく口を開く。おかしい、誰も口を開かない。振り返ってみると、みんな立ったまま動かない。おかしい、まるで時が止まったかのように微動だにしない。まさか?
マイに駆け寄ると、斧を構えたままその体は石と化していた。僕は一瞬何が起こったのか解らなかった。
「マイ……」
僕の口から無意識の内に言葉が漏れる。呆けてる場合じゃない。大丈夫、死んだ訳ではない!
マイを収納に入れ、他の少女冒険者四人のそばにいくと、果たして全員石化していた。震えを押さえながら、みんなを収納にしまう。
「ご主人様、危ない!」
アンの声がして僕は突き飛ばされる。
僕がいた所に白い光が飛んできて、突き倒したアンに吸いこまれていく。一瞬にしてアンも石になってしまった。僕は駆け寄り即座に収納にしまう。
「ブッファファハハハハッ」
黒竜王の方からくぐもった笑い声が聞こえる。燃え盛る肉塊の中に男の顔が浮かび上がる。
「あとは、お前だけだ。すぐに殺してやる」
肉塊に浮かび上がったアカエルの顔から低い声が響いた。