戦いはエンドレスワルツ
「ナディア、ナディア、美しき人魚♪」
意思とは関係なく、僕は歌いながらハンマーを黒竜に叩きつける。自然と動きが歌に引っ張られる。しかも気を抜くと息が出来ない。それは全員そうみたいで、みんな歌いながら音楽に合わせて動いている感がある。正直、戦っているというより踊っているみたいだ。
星空の下、魔法の明かりに照らされて竜と人が終わらないワルツを踊る。
ナディアを潰すか?一瞬いいアイデアが頭に浮かんだけどそれを払拭する。僕らは近接戦に強く、相手の虎の子はドラゴンブレスと魔法だ。それを封じ込めている今は膠着してはいるけど好機だとも言える。
黒竜王オブシワンにはリナとナディアがドッグファイトを繰り広げている。リナが切り落としても切り落としても黒竜王は再生しているみたいだ。そっちはとりあえず任せてても大丈夫っぽい。
まずは雑魚から。僕はハンマー、マイは巨大な斧、アンは素手で他の黒竜を叩き捲っている。
少女冒険者の戦士アンジュは両手に斧を持ち、神官戦士のミカは僕に似たハンマーで、僕たちの邪魔にならないように配慮しながら援護してくれている。
魔法使いルルと野伏のデルはラファを負ぶってジブル袋を持ったシャリーの前に控えている。たまにデルからは物騒な物が飛んできてドラゴンをぶっ飛ばしてくれてる。
ルルとデルとシャリーは腕をふりふり歌ってて、僕らを応援しているようにしか見えない。
黒竜は殴られても切り落とされても全く怯まず、すぐ再生して何事もなかったかのように襲いかかってくる。しかも僕らには心のどっかに引っかかりがあって全力で戦いきれてない。
一匹の黒竜の頭に痛打を与えてやろうとしてその額にある顔と目が合う。騎士ミケだ。焦点の合ってない虚ろな表情でナディアを讃える歌を歌っている。お間抜けだけど優しかった彼女との思い出が頭をよぎる。牢屋で寒がったアンに毛布とうっすいスープを持ってきてくれたな……
一瞬手を止め、僕は黒竜ミケを蹴り飛ばす。
出来ん!
出来る訳がない!
ミケの顔をハンマーで潰せる訳がない。人として。
なんかいい方法はないか?
そうだ!
埋めよう。全員埋めちまおう!
「ナディア、少し疲れた。きゅーけーい!」
ナディアの声が聞こえる。
「良くやった、ナディア、剣気が溜まったぞ!うおおおおーっ!ゴッドスレイヤーインフィニティアタック」
リナの雄叫びが聞こえ、見ると金色の光に包まれて、黒竜王を滅多斬りにしている。超必殺技か?今がチャンスだ。
「マイ、しばらく頼んだ!」
僕は一時戦闘を離脱して、戦場からある程度離れた所で、収納に地面の土を入れて穴を掘り始める。螺旋を描くように回り、ドラゴン20匹を入れられるように大きく深く掘る。以外と面倒くさいな。そうだ、ポータル。
ポータルを四方に射出して一気に掘り進める。
「うわっと!」
今度はやり過ぎた。すぐに止めたけど、みるみるうちに地上は小さな穴になり、僕は地面に何とか着地する。まあ、デカイにこした事はないだろう。
僕はロッククライミングの要領で穴の壁を登る。猿人間の名は伊達じゃない。やろうと思えば両手だけで結構どこでも簡単に登れる。
僕は穴から這い出して、また戦線に戻る。