北の魔王とその配下
「ナディア、【ナディアの歌】だ。ザップ、ブレスと魔法は封じる」
リナが振り返ると、ナディアが前に出て黒装束を脱ぐ。銀色の貝殻水着だ。手には金属の取っ手のついた巨大なベルをもっている。ナディアが戦うのは初めて見るが、あれが武器なのか?
目の前にプラチナゴールドの髪をツインテールにまとめて、布面積が少ない金のビキニアーマーに身の丈ほどの大剣を片手に担いだ北の魔王リナと、青いふわふわとしたウェイビーな髪に要所は銀の貝殻をチェーンみたいな紐で固定したお尻丸出しで服を着てるとは言えないような魔王の四天王ナディアが立っている。
ここは南国のビーチなのか?一瞬そう思ってしまうが、その前には無数の黒竜たち。しかも人面がついててキモい。
僕が考えたのは一瞬。ついつい目がいってしまうナディアのお尻を見ないようにする。
「ナディア、ナディア、人魚のアイドル♪」
カーン!
ナディアが歌いベルを鳴らす。甲高い音が響く。
僕の心に何かが警鐘を鳴らす。
なんか嫌な予感がする。なぜなら、リナとナディアだ。どういう予測不可能なカオスがもたらされるのか?
それにはすぐに気づく事になる。
「ナディア、ナディア、美しい人魚♪」
ナディアと一緒にリナが歌いながら黒竜王の方に駆け出す。あいつ頭大丈夫か?
「ナディア、ナディア、美しい人魚♪」
リナとナディアに合わせて黒竜王についてる全ての人面が歌う。しかも黒竜王もウガウガ歌っている。
やばい、確かに魔法とブレスは封じられるけど、なんてえげつないんだ。
黒竜達が僕らの方ににじり寄る。
僕はハンマーを出して構える。
「ナディア、ナディア、可憐な人魚♪」
僕もとうとう歌い出す。駄目だ、シャリーの加護も全く効果ない。
「「「ナディア、ナディア、素晴らしい人魚♪」」」
黒竜たちの額の人面も高らかに歌い始める。
「「「ナディア、ナディア、最高の人魚♪」」」
後ろで僕の仲間たちも熱唱し始める。なんてこったい!
『ナディア、ナディア、究極の人魚♪』
風に乗ってジブルの歌声も聞こえる。以外といい声だ。
「ナディア、ナディア、美しすぎる人魚、人魚、にーんぎょー♪」
コーン!コーン!
ナディアがひときわ大きな声で歌い、僕らも敵もそれに合わせて歌う。
ナディアを讃えるクソのような歌が辺り一面に響き渡る。恐ろしい。多分、魔道都市アウフに住む全ての生き物がこのアホのような歌を熱唱している事だろう。多分、ナディアの持っている大きなベルにはナディアの歌の魔力を増幅する効果があるのではないだろうか?
なんとか気を取り直してハンマーをしっかり握り駆け出す。竜と同化した人達には悪いがこいつらはここで滅ぼす。
全ての生き物達がナディアを讃えながら、戦闘は始まった。