無限の可能性
仲間で逃げ遅れた者がいたら助けようと思ったのだが、その心配は要らなかった。みんなブレスの範囲内から逃れていた。後に残った騎士たちは腐食の炎で焼き尽くされている。突き飛ばしたミケもブレスを気にせず僕に向かって来て呑み込まれていってしまった。ミケ、助けられなかった……
ブレスの後に残ったのはグジュグジュした塊みたいな騎士の残骸だけだった。その残骸は気持ち悪くのたうちながら手が生え足が生えまた一つの形を成した。体は黒い鱗に覆われている。なんだ、なにが起こっている?彼らは人間じゃなかったのか?
『超速再生……もしかして……』
ジブルの囁きと騎士たちが立ち上がる音が聞こえる。
「その通りだよ。さすが導師ジブルだな」
黒竜がいた方から誰かが歩いて来る。
アカエル大公だ。
「有能な騎士たちだから、力を与えてやった。お前たち力を解放していいぞ」
立ち上がった騎士たちの体が爆発するかのように膨れ上がる。お互いに体を押しのけあいながら巨大化していく。僕たちはそれにのまれないように距離を取る。
僕たちの目の前に団子状態の黒竜の一団が発生した。せめてお互いの距離をとってから変身するべきだと思う。
「もうすでに聖教国を蹂躙する準備は整っていたのだよ。都市の周りに配置した魔物は我が軍団を作るための時間稼ぎにすぎない。魔道都市の魔力を使って我が眷族を召喚し、更なる力を与えるために人間と結合した。みたまえ、竜の額に人間の顔があるだろう。竜の力と人間の英知を備えた最強の兵士達だ」
大公の言葉通り黒竜の達の額には人の顔みたいなものがある。気持ち悪いな。
「そして私は暗黒竜王オブシワン。この世界に新秩序をもたらす者だ」
アカエル大公の体から噴き出した闇が膨れ上がる。大公の顔面が宙に浮き上がりその周りに竜の顔が現れる。しかも竜の額にはあと複数の顔があるような。
『王、王妃、カサノバ、ノエル、ガンダダ、私の同僚達です。なんて事を……』
「どういう事だ?お前、何をしたんだ?」
「簡単な事だよ、これはアクセサリーだ。我ら竜族は人型にならないと人間の多種多様な魔法やスキルは使えない。こうするとそれが可能になる。人間如きと融合しても私は微塵の痛痒も感じない。お前達もこの中に加えてやる。私は無限の成長の可能性を手に入れたのだよ。神、魔王、邪神。全てを取り込んで最強の存在になるのだよ」
そうか、竜には使える魔法が限られていたのか。だから石化の呪いは使えなかったのか。ということは、アカエルの頭がついてる今は使えるって事か。これはやばいんじゃないのか?
『それで、【世界】の魔法は手に入れたの?』
ジブルの声が響く。【世界】の魔法?
「【世界】はなくとも、私にはオブシワンの力がある。いつか【世界】も手に入れる」
「ゴタゴタ、言ってないで始めるぞ!」
黒装束を脱ぎ捨てて、大剣を構えてリナが前に出た。