街中ドラゴンと脳筋馬鹿
取り敢えず、走る走る走る!
辺りの建物にちらほら明かりが灯る。そう言えばナディアの歌声が聞こえない。なんか起こったのか?
建物から通りに出てくる者もいる。これはいかん。
「城の方にドラゴンだ! 逃げろ!」
僕は大声を上げる。出て来た住民達は空を見上げると一目散に逃げていく。
目の前に動く者は見えない。良かった。僕の仲間はみんな街の外に逃げ切ったみたいだ。
ラファを負ぶってたアンが心配だったが、ヤツはドラゴン、体力的には問題ないだろう。
眠っているラファは置いてきた方が得策だとは思ったが、もしラファが起きてたのなら絶対ついて来たはずだし、ラファが狙われる可能性がある以上、僕たちと行動を共にするのが安全だということで、アンに負ぶわれている次第だ。
後ろをチラ見する。げっ、体当たりの方か!
ドラゴンの影がみるみる大きくなっていく。近づいて来ている。
僕は大通りの真ん中と思われる所を走る。良いことにこの通りはドラゴンの横幅より広い。体当たりされても上手く道なりに誘導出来たら街への被害は減らせるはずだ。
けど、よく考える。そんな上手くいくわけない。間違いなくドラゴンはそこらの建物に突っ込んでまだ眠っている辺りの住民ごと押しつぶしてしまう事だろう。周りの人々は僕たちが眠らせたようなものだから、それで被害を受けたら僕らの責任だしな。
理屈はどうでもいいや、人が死んだり怪我するのは嫌だ。ただし悪いヤツは除く。
僕は振り返り、愛用のハンマーを収納から出す。そして足を開き大地をしっかり踏みしめ下段にハンマーを構える。
僕は馬鹿だ。顔も見たこともない他人なんて見捨てればいいんだ。
ドラゴンの影が大きくなる。
馬鹿でいい! 僕はやりたいようにやる。
馬鹿になれ!
馬鹿になってやる!
大きな闇が口を開く。
「ウオオオオオオオーッ!」
気合いを入れ腰を落とし全身の筋肉を活性化する。
巨大な顎が眼前に迫る。
怯えるな!
我慢しろ!
引きつけろ!
鼻先擦れ擦れまで迫った所で全力でハンマーを掬い上げる。
ゴガッ!
重い音がして何とか黒竜の頭をかちあげる。両腕にあり得ないくらいの衝撃が走る。痛いというより熱い。焼け切れそうだ。
まだまだだ!
これからだ!
腕、腰、腹、両足、全ての筋肉を使いハンマーを振り抜く。両足が通りの石畳を爆ぜさせて足首くらいまで大地に埋まる。その足を抜き体を返しドラゴンの突進の力を流してさらに後方上空に向けて全ての力を加える。
「オオオオオーッ! どうりゃーっ!」
竜の下顎に刺さったハンマーのトゲを引っ掛けて竜を上空にぶん投げてやる。
成功だ!
黒竜はゆっくり回りながら、最初の位置の僕の後方、大通りと外を繋ぐ城門の上の方に飛んで行った。