城内での攻防
僕は後ろを気にせず一直線に赤いカーペットを走りぬける。前の空気を収納して後ろから出す、空気抵抗ゼロの『荷物持ち走り』だ。
アカエル大公、いや黒竜は前回の経験から知能があると思われる。遠距離攻撃の火炎の息や腐食の息を放つならば、広い所よりも長く一直線のこの先の廊下で吐く方が効果的と思うはず。逆に通路でブレスを吐かれたら普通だったら逃げ道はない。だから今ブレスは吐かない。そう思った時期もありました。
「ゴゴゴゴゴゴーッ!」
嫌な音がしたので、咄嗟に横に飛ぶ。読み負けた。いきなりブレスをぶっぱなして来やがった。危ない所だった。ていうか背中がヒリヒリする。食らってるしー!
即座にエリクサーをかけて傷を癒す。シャリーの祝福のお陰でなんとか即死は免れたけど、危ない所だった。
黒竜を睨みつけながら立ち上がる。何っ、黒装束がいやそれだけでなく服が全部ハラリと落ちる。ちょっと食らっただけかと思ったら後ろの方まるっとやられていたようだ。
ああ、僕の黒装束……久々におきにの僕の服……
即座にお馴染みのミノタウロスの腰巻きを首と腰に巻く。ああ、久しぶりかつ懐かしのモンキーマンスタイルだ。なるたけ人に見られたくない。また変な噂が広がりそうだ。僕の体はまだ金色の光に包まれている。シャリーの祝福はまだ生きてるな。
恐ろしいのは石化魔法だ。あと何発祝福が耐えられるか解らない。なかなか無理ゲーなんじゃ?こいつの攻撃を避けながら街の外に逃げるのは?
黒竜としばらく対峙する。
ここで戦うか?いや逃げて仲間と合流すべきだ。使えるものは?あった!
謁見室の床を全て収納に入れる。
ゴゴゴゴゴッ!
とたんに強度を失った部屋の床下に黒竜は呑み込まれていく。やっぱあったか地下室。下には人がいないことを祈る。まあ、居たとしても囚人とかのはず。僕は黒竜が見えなくなったのを確認して部屋の入り口へと走る。部屋を出た所で、ちゃんと床は戻しておく。弁償は嫌だからな。まあけど黒竜が呑み込まれていった所は凹んでいたが気にしない事にする。
通路を走る。黒装束の暗視能力がないのが痛い。とにかく走ってなんとか城を出る。星明かりの下中庭を走り抜けて壊れた城門をくぐって街に出る。あとは街の外まで一直線だ。
「グゥオオオオオーッ!」
けたたましい咆哮を耳にし振り返ると城のシルエットの上に巨大なものが浮かんでいる。
げっ、あいつ、あんな飾り物のようなチンケな羽で飛べるのか……
まるで闇のような影が羽ばたきに合わせて上下しながら徐々に上昇していく。
突進か?
ブレスか?
どっちにしても街中はやばい。僕は出し得る最速で大通りを走り始めた。