大公との邂逅
僕たちは音もなく中庭を突っ切り、また僕が扉を収納に入れて城内に入る。デルに誘導してもらって進んで行く。さすがに初めて来た場所なので、走らず早歩きで進む。
黒装束の暗視能力は凄い。真っ暗な筈なのに薄暗い夕方みたいだ。こんな凄い魔道具を作る魔領にも行ってみたい気がする。もしお尋ね者になったら行ってみることにしよう。
デルはほぼ真っ直ぐ進んで行く。だいたい僕の少ない城に関する経験上、城の中央には王との謁見の間があるから、このまま進んだらそこに出るのではないだろうか。けど、今の時間にアカエル大公がそこにいるって事なら襲撃はばれていたのか?
誰が言い出した訳でもなく、僕たちは早足から慎重に進みはじめていた。
大きめな通路を進み、装飾が施された大きな扉に着く。
「……鍵はついて無さそうです……」
デルが囁く。
僕は意を決して扉を開ける。
広い天井の高い部屋で僕たちの入った扉から床に赤に金刺繍のカーペットが真っ直ぐ伸びている。その先には少し高い段の上に玉座が見える。
その玉座には肘掛けに片肘を乗せて誰か座っている。
サラサラの金髪に少し面長の顔。女顔系の女子うけするイケメンだ。悲しいかな、僕の対極に位置する生き物だ。けど、悪趣味な事に、黒いマントに首には髑髏のついたネックレス。骨をイメージした鎧に、とどめに頭の上には何か解らない動物の頭骨を乗せている。その頭骨の上に煌びやかな王冠が乗っている。正直かなり残念な人にしか見えない。街で見かけても絶対に声をかけられないタイプだ。
しかも全体的に着衣が乱れていて、寝息をたてながら爆睡している。
まさか、こんな感じで再び見えるとは微塵も思っていなかった。こいつだけは起きてるものと思っていたが、ナディア、凄すぎだろう。僕の絶対戦いたくない者リストに人魚ナディアが入った。そりゃ、人間諸国、魔領に攻め込めない訳だ。
多分、アカエル大公は、襲撃に気づいて急いで着替えて謁見の間に来たけど、玉座に座ったところで、ナディアの歌に犯されて眠ってしまったのだろう。
けど、どうするか?叩き起こして話するか?それとも攻撃するか?
「我が名は北の魔王リナ・アシュガルド!そのまま永遠に眠れ!金色魔王砲」
前に飛びだして突き出したリナの両手から金色の膨大な力を含んだエネルギー波が放たれる。
なんか、羨ましい。こいつ何も考えてないんだろうな。
敵・即・殺。
それだけなんだろうな。けど、寝てる相手に名乗りはいるか?
キュイーーーン!
何かが軋むような不況和音がする。玉座の方からだ。玉座を呑み込んだ光はその後ろの壁を突き抜ける。
パリーン!
何かが割れる音がする。その音に呼応して光の中に影が見えて近づいてくる。
リナがエネルギー波を撃ち終わった後に1人の人物が立っている。
「少し乱暴な起こし方ではないかな?レディはもっとお淑やかにするべきではないかな」
聞き惚れるような低い声がする。
アカエル大公はずれた動物の頭骨を整えて僕たちを舐めるかのように見渡した。