見えない敵
「光よ我らに加護を神聖祝福」
シャリーから放たれた光が僕らを包み込む。
「うちの歌を聞けーっ!超全力でいくわ!みんな眠るのよ、ルーララ、ルーララ、ルー♪」
ナディアが歌い始める。何気に凄いよな。走りながら歌うとは。走りながら?あ、そう言えば足がある。今日は人魚スタイルじゃないんだ。覆面でゆるふわの顔が隠れているのが残念だ。
この次は、ルルが魔法を使うはず。
ドサッ!
黒装束の誰かが転倒した。なんだ?敵の攻撃か?
倒れた誰かは起き上がらない。いかん!
僕は立ち止まり駆け寄ろうとするが、どんどん体が重くなってくる。う、眠い。眠すぎる。瞼を開けていられない。シャリーの祝福をものともせずに、高レベルの僕が抵抗出来ないとは、そんな魔道士が敵にはいたのか…もう駄目だ……
僕の意識はそこで途切れた……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うごぉおおおあおっ!」
頭に激痛が走る。
「ザップ!ザップ起きてっ!」
マイの手には僕のミノタウロス王のハンマーが……あれで僕をどついたのか、下手したら死ぬぞ。まだ痛いし。
怒ろうとするが、マイの左手から血が流れている。
「どうした、マイ!すぐに治してやる」
僕はエリクサーをかけようとするが、マイに止められる。
「だめっ!痛みが無くなったら眠ってしまうわ。まずはこの状況をどうにかしないと!」
辺りを見渡すと、みんな大地に横たわっている。なんだ?何が起こったんだ?
「マイ、敵はどこだ?」
敵影は見えない。僕たちの索敵能力をうわまわる。見えない敵なのか?
「あの、遠くで歌っている馬鹿人魚よ!」
「え、人魚?」
マイの指差した方を見ると、ルールー歌いながら踊っている黒装束の人物が……
僕も着ている黒装束のお陰で、真っ暗だけど薄暗いくらいに見える。
「マイ、ハンマーを投げろ。死なない程度に加減して!」
「りょーかい!」
マイは右手でハンマーを振り回して投げる。それは一直線に黒装束の人物まで飛んで行き、その影を貫通した。
「あ…」
マイの口から呟きが漏れる。歌声は止まったけど、明らかにやり過ぎだろう。
僕は人魚を助けるべく全力で走った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「痛いじゃないですか!死ぬかと思ったじゃないですか。ぷんぷん!」
ハンマーは人魚の足を貫通してて、即座にエリクサーで治してやった。
「なんで、すぐに歌うの止めないのよ、おかしいとか思わなかったの?」
駆け寄って来たマイが人魚に詰め寄る。マイのしたことの方がえげつないと思うが……
「しょうがないじゃない!全力で歌うと周り見えなくなるのよー!」
確かに熱中して周りが見えなくなる事もあるかもしれないが、正直気づけよと思う。なんて危険な生き物だ。敵より味方の方が危険な気がする。魔領にはリナといいこんな奴らばっかなのか?
エリクサーでマイの手と、ズキズキする僕の頭を癒して、グーグー寝てる仲間達の方に向かった。