第二十八話 荷物持ち安堵する
「ザップ! 起きて起きて!」
うるさい奴だな、もう少し休ませて欲しい。
僕は朦朧とする頭のまま目を開ける。そこには触れんばかりに近づいたマイの顔があった。目は潤んで今にも涙がこぼれそうだ。
良かった、無事だったんだな。
横たわってる僕にマイが抱きついてくる。顔先にマイの髪が触れ、お日様のような、そして少し甘い香りがする。柔らかい体が僕に押しつけられる。
誘惑に負け、マイの頭を軽く撫でる。猫耳がもふもふで気持ちいい。マイの耳がくすぐったいのかピクピク小刻みに動く。
もう少し猫耳を堪能したい所だけど、こんな事してる場合ではない。僕には絶対にやらなければならない事がある。
「近い。離れろ」
僕は起き上がり、ゆっくりマイを引き剥がす。マイの体はとても軽かった。さっき運んだときの重さが嘘のようだ。
「ザップ、何が起こったか全くわからないわ?」
マイが小首をかしげる。
僕は泉の隣にマイのマントを敷いて寝かされていて、上には僕のマントをかけられていた。
僕は、すぐそばにある小さな石碑を指差す。
「エリクサーの泉、戦いの前に全てを癒やすがいい?」
マイは石碑を読み上げる。
「え、エリクサーの泉! そんな夢のようなものが……ザップはそれで……」
大体の事は伝わったみたいだ。
僕はノソノソと起き上がり泉のふちに座り、収納にエリクサーを入れ続ける。今度はもしもの時のために、十分過ぎる以上に汲むことにする。エリクサーが吸い込まれていくのをマイが興味深そうに眺めている。
「なんで、待ってなかった?」
僕がマイの立場だったら、絶対に広間には入らない。ただ死ぬだけだからだ。
「待てなかったから! 待つのが嫌だったから!」
マイは即答する。訳がわからない?
「死ぬ所だったんだぞ、現に死にかけた」
「ザップと、ザップと別れるのが嫌だったから……」
マイはそう言うと泣き崩れた。本当に、訳が解らない。けど、僕にはなんて言えばいいのかだけは解る。
「ありがとう」
僕は素直にそう思えた。