黒竜のスキルガチャ
「なんじゃこりゃあ!」
『みみずくの横ばい亭』の前には途切れる事のない行列が……
もしかして大げさではなく街にいる人全て並んでいるのではないだろうか?
「ザップの倒したドラゴンー、みんなで一緒に食べましょー、食べましょー♪」
店の入り口では人魚のナディアがこの世のものとは思えないような美しい歌声で、どうでもいいしょうもない内容の歌を歌っている。僕の名前を出すのは止めて欲しい。
「はい、そこー、もう少し詰めて下さいね」
冒険者の戦士アンジュが列を整えている。遠くでは神官戦士のミカも同様な事をしているように見える。
『ドラゴンステーキ定食 銅貨5枚
ドラゴンフライ 5個 銅貨3枚』
店の入り口には大きな看板が出ている。これは安すぎだろう。こりゃ行列が出来る訳だ。けど、ドラゴンフライって虫のトンボの事じゃなかったか?
『モンキーマン・ザップが倒した黒竜使用。もれなくスキルついてきます』
なんか看板の下にマイが書き始めている。だから、実名は勘弁して欲しい。
『SR、腐食の息、暗黒魔法吸収、全属性耐性、全能力上昇、自動回復極大』
ん、なんだ、手に入るスキルのリストか?王都で流行っているガチャの景品みたいだな。スキルの内容激しすぎでは?けど、腐食の息はやばすぎるだろ。日常生活に支障をきたすのではないか?
『R、火焔の息、暗黒魔法完全耐性、浮遊、自動回復中』
おお、レアのスキルはまともだな。けど、火焔の息も一般人には危険なんじゃないか?
『N、各能力値強化、各属性魔法耐性強化、自動回復小』
ノーマルはまあ、普通のスキルだな。普通に使えるスキルだな。
『排出率、SR0.3% R2.7% N97%
スキルを獲得出来るのは、最初の1回の食事の時のみです。もれなく、体力回復、滋養強壮ついてきます。
なお、本日は、マイとナディアが無料鑑定致します』
「「「おおおおおおっ」」」
並んでいる人々からどよめきが溢れる。そりゃそうだよな、SRのスキルを引いたら多分王都で一流の冒険者か騎士になれる。たった銅貨数枚で破格なガチャを引けるのだからな。
「ふうっ」
マイは看板に書き終えて一息つく。なんか、サギ商品のうたい文句みたいだが、マイが書いたので全て本当なんだろう。
レアとスーパーレアは合わせて3%、辛いガチャだな。実際のガチャだとクレームばこばこ来そうだ。
「これ、黒竜の肉の鑑定結果なんだけど、ザップー、あたし食べるの止めとこうかな。腐食の息って女子としてどうかなって。なんか臭そうだし……」
0.3%の7分の1、有り得ないような確率だけど、マイ、それはフラグなのでは無いか?
「けど、マイ、鑑定の、精度あがってないか?排出率までわかるのか?」
「あたしも日々成長してるのよ。これもザップに貰ったスキルポーションのおかげよ、ありがとう」
マイは、『ありがとう』ってよく言うな。それっていいと思う。
「マイ姉様、調理が追いついてないから手伝って下さーい!」
メイド服を着たデルがマイの手を引っ張っていく。僕の知らない所で、戦いが始まってるみたいだ。
飯、並ばないと食べられなさそうだな。まあ、僕も手伝うことにするか。