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第二十七話 荷物持ち助けられる


 ガッ! ザシュツ!


 何か固いもの同士があたるような音がして、さらに鈍い音が続いた。


 霞む視界の中、僕とミノタウロス王の間に何者かが立ち塞がっている。


 ガラン!


 その者の手から何かが落ちる。


 切り裂かれた斧だ。


 糸の切れたマリオネットみたいにその姿は僕の横に倒れ込んだ。


「ザップ……ごめん……一撃も耐えられなかった……」


 マイだ、なぜ、なぜここに来た?


 僕に何か生暖かかい雨のようなものが降り注ぐ。


 赤い雨?


 それはマイから噴き出した血液だと気づく。


 マイの胸からは血が溢れ床に血だまりを作っていく。


 彼女は震える手でその胸元から水筒を出して僕に中身を全てかけた。


 何をしてるんだ?


 頭が追いつかない……


 この液体はエリクサー? なぜ自分じゃなく僕に使ったんだ?


 ゴツッ!


 音のした方を見ると、ミノタウロス王は巨大な斧を地につけ膝をついている。そうか、奴も限界が近いんだ。


 ミノタウロス王はふらふらと立ち上がり、斧を再び振り上げる。その刃はマイを狙っている。


 させるか!


「ウオオオオオオッ!」


 口から叫びがほとばしる。僕は残りの力を全て振り絞り立ち上がる。マイのエリクサーのおかげで若干傷は癒えている。ミノタウロス王の右手を無我夢中で両手で押さえて力づくで巨大な斧を奪う。


 ミノタウロス王を蹴り倒し、斧を振り上げ、全ての力と全体重を込めてその顔を目がける。


「ウオオオオオオオオーッ!」


 腹の底から気合を入れて、斧を振り下ろす。


 頼む! これで終わってくれ! 



 ガガッ!



 固い音をたてて、斧はミノタウロス王の顔を切り裂き首まで食い込んだ。





 終わった……




 やっと終わった……





「マイ!」


 マイは血だまりの中に力無く倒れている。


 僕はマイを抱き上げると、扉を開けてその奥のエリクサーの泉に向かって走る。


 頼む!


 頼む、間に合ってくれ!


 走ってるつもりだが、思うように前に進まない。まるで泥濘ぬかるみの中歩いているようだ。気を失ってるマイは小柄なのにとても重く感じる。どくどくと、マイから血が流れ出す。


 長距離走った時のような吐き気に襲われながらも、それを押し殺し、ただひたすら前に進む。


 泉だ!


 泉についた!


 僕はマイもろとも飛び込む。緊張の糸が切れて、僕は意識を失った……


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