グラスホッパー
「よし、行くか」
更地になった冒険者ギルドと魔道ギルドの建物があった所を見渡し、僕は城門に向かう。
『よし、行くかじゃないでしょ!この後どうするのですか!』
ずだ袋の中からカチカチ音がする。相変わらず面倒くさいやつだな。
「落ち着いたら元に戻す。それでいいだろ」
とりあえずなんとなく袋を振ってみる。
『止めて下さい、止めて下さい。酔いますよーっ!』
「ザップ、楽しんでる所悪いけど、建物の跡おかしくない?普通だったら基礎工事の跡とかあるはずだけど」
マイがくいくいとジブル袋と反対の手の袖を引いて建物の跡をさす。ちなみに僕は楽しんでないぞ。
「そうだな、地中に柱が刺さってた跡とかも無いしな、まあ、いいんじゃないか?」
僕は歩きながら答える。
『はい!はい!それについては答えさせて下さい』
「いいよ、お前の話は退屈で長いから」
『………』
よし、やっと袋が大人しくなった。
「ザップ兄様、聞いてあげましょうよ、私、少しは興味ありますし」
デルが近づいてくる。けど、女の子3人とも僕というより、袋から出来るだけ距離を取っているような気がする。
なんか僕が傷つくんだけど。嫌われてるみたいで。
もしかしたら気付いて無いだけで、また前みたいに僕は臭いのかも知れない。自分の袖口と襟元のにおいを確認する。自分の臭いは解りにくとは言うが、うん、大丈夫なはず。
もしかして、こいつか?
ジブル袋も持ち上げて嗅いでみる。うん、無臭だ。
『ちょっと、ちょっとザップ様、何してるんですか、今、嗅ぎましたよね?私の匂いを嗅ぎましたよね?なんて事してるんですかレディーに向かって!』
袋がガチャガチャし始める。元気なやつだな。
「ん、なんかみんな近づいて来ないから、もしかして、俺かお前が臭いんじゃ無いかと思ってな」
『私が臭い?』
「大丈夫だ。腐った臭いはしなかった。まあ、だが、念のために家に着いたら温泉で綺麗にしてやるよ」
『え、殿方と温泉……』
「殿方ってお前いつの時代の人間かよ」
むぅ、つっこんじまった。泥沼だ。話が進まない。とりあえず、ファーストウォールに着いたので塞いでいる岩石を収納に入れる。
『いつの時代の人間って、私は正確には人間じゃなくて、子供族のホップです。もっとも今はスケルトンですが』
「ホップって何だ?なんかエール酒の材料もそんな名前じゃなかったか?」
僕たちは話らながら、瓦礫を収納にいれながら事も無げにファーストウォールをくぐる。
「それは麦芽です。ホップという生き物はですね、グラスホッパーと呼ばれる放浪癖のある小人族で、成人しても人間の子供くらいにしかならないです。まぁ、私もエルフではありますが。ちなみにエルフはホップが嫌いです。ジブルって骨なだけでなくホップなんですね。全くいいとこ無しですね。話なんて聞くだけ無駄だと思いますよ」
デルは袋を見て鼻をつまむ。真面目なデルがここまで人をディスるのは珍しい。ホップって言う種族に会うのは初めてだが、何故そんなにエルフに嫌われるのだろうか?
僕はファーストウォールの岩石を元通りにして、幾つかは岩石を収納に入れたままにする。マイが壊した他の扉を補強するためだ。
「デル、ホップには酒乱とか盗賊とかが多いけど、ジブルは多分いい人よ。それに今はホップじゃなくて、骨だから仲良くしてあげて」
マイがデルの肩を叩く。僕の仲間たちの中ではマイを頂点にがっちがちなピラミッドが出来ているから、これはお願いという形をとった命令だな。
「わかりました。ジブルはホップじゃなくて骨と言うことで我慢しますっ!」
デルはマイに敬礼する。まじで軍隊かよ。それにホップという小人族はスケルトン以下の種族なのかよ。
『なんか、悲しくなってきますね……はい、建物ですけど、壊れない魔道具です。はい終了』
どうもジブルはスネたみたいだ。どうやってご機嫌とろう?ま、そのままでいっか。
そんな事を考えながらセカンドウォールを目指して廃墟と化した街を歩いて行った。