大きすぎる代償
部屋の中はもう白い靄は消えてミネアの魔法の効果は消えている。
ドラゴンの爪で裂かれたデルに駆けよりエリクサーで治療して、駆け寄ってきたシャリーにも念のためエリクサーをかける。
次はラパン、いやラファの所に走って行く。見たところ無傷だけど、一応ラファにもエリクサーをかける。ラファは気を失ってるようなので右手に抱える。
そして探すが居ない。
妖精ミネアが見当たらない。
「ミネアーっ!」
返事はない。
視界を遮る邪魔なドラゴンの死骸を収納にしまう。辺りにはもはや物陰はない。
「ミネア…」
ミネアはもしかして僕を助けるために消滅してしまったのか……
もしそうならば、僕の復活のために払った代償は大きすぎる。
抱えているラファがピクンと動く。今僕は左手にマイを抱えていて右手にラファを抱えている。次はマイが動いたような。マイが度々動くので見てみると、瞑ったまぶたが微妙に動いているようにも見える。タヌキ寝入りかも知れないがこの際見なかった事にしとく。
「さっきの魔法は、全ての魔法効果を打ち消す魔法。多分、ミネアは……」
シャリーが目を伏せる。僕は今なんて言えばいいのか解らなかった。
ミネアが消えた……
僕の心の中にぽっかり穴が空いたみたいだ。
お馬鹿でいつも元気な妖精の姿が頭に浮かぶ。
いや、ミネアは死んだ訳ではない。きっとまた元気な姿でひょつこり現れるはず。僕はそう信じる事にする。
「ザップ兄様、扉が有ります。魔法で隠されてたようです」
デルの言葉に我に返り見てみると、部屋に入って右手に大きな扉が現れている。
考えるのは後だ。まずはこれからどうするかだ。
正面玄関にも普通の大きさの扉が出現しているが、まずは大きな扉に向かう。両手が塞がってるので、デルに開けてもらって中に入ると何も無い大部屋があり、奥にも扉がある。
奥の扉を開くとそこも大部屋で中央には幾つかの魔方陣と、壁にはびっしりと本と幾つかの棚にはわけの解らない物が入ったビンがある。テーブルと机も複数あり、ここは共同研究施設だったと思われる。壁の一角には壁に据え付けられたテーブルと魔道具と思われる石版みたいなものがある。それは謎の物質にガラスみたいなものが貼り付けてあって、僕のタブレットに酷似している。それに近づくと石版の表面が光りアイコンが表示されタッチパネルになっていた。
マイとラファを優しく壁にもたれさせ床に座らせる。
幾つかパネルをいじってみて解ったのは、これで複数のワープポータルを起動する事が出来るみたいだ。ワープポータルは迷宮の入り口と魔道士ギルドの迷宮都市本部のタワーの一角に続いているようだ。あと、この魔道具には幾つかの機能があるみたいだけど、複雑で僕には理解出来ない。
一端ここでこの部屋の探索は中断して、マイとラファを抱え、ドラゴンのいた部屋に戻りそこにあるもう一つの扉を開く。通路を進んだ後には小部屋があり、その中央には下への階段がある。
「一旦地上に戻ろう」
デルとシャリーは僕に頷く。迷宮には先があるが、今回は迷宮攻略が目的ではない。僕の確保が目的だったのだが、それを成し遂げた犠牲が大きすぎる。
『ザップ……ザップ様ですね……』
見渡すが僕たち以外居ない。確かに誰かに呼ばれたような?
僕は研究施設に戻ろうとする。
『待って、ザップ様……』
確かに僕には声が聞こえた。