黒竜
ギギギギーッ!
マイさんが押した扉が軋みを上げて開く。盗賊という者たちは油を持ち歩くという。それはこういう時のためだろう。金属の扉が床に擦れる音は不快で、部屋全体に響き渡った事だろう。もし中に何か居るなら僕たちの来訪はすぐに気づかれたのでは。
「やっぱり何も居ない訳ないか……」
マイさんの口から呟きが漏れる。
部屋の中に入ると、奥に見える小山が動いたように見えた。小山の前には先端に何かがついた石だと思われる武骨な柱みたいなものが見える。僕は瞬時にそれらが何か悟り、部屋の奥に走り出す。他のみんなも走り出している。
「光よ我らに加護を神聖祝福」
シャリーちゃんの祝福の魔法が体を包み込む。体が軽くなる。空も飛べそうな気分だ。
奥の小山の全貌が見えてくる。
光を弾かない鈍い黒色の体に、首の長い鰐やトカゲのような体。からだの割には小さいコウモリの皮膜のような羽を広げて、かま首をもたげる。爛々と輝く赤い双眸が開き僕らを睥睨する。
黒竜、暗黒竜とも呼ばれる。破壊の化身。凶暴な性格で、出会った冒険者の選択は逃げるか倒すのみ。僕が知ってるのは後は『腐食の息』を吐くという事だけだ。デルさん言うには暗黒竜の伝承は多いけど、実際の戦闘記録はあまり無いらしい。出会った者はほとんど生還してないのだろう。
「グゥオオオオオオオオオオオーッ」
黒竜は乱杭歯の並ぶ口を開くと咆哮を上げた。黒の中に赤、まるで闇の中に口が開いたみたいだ。
「みなさん、祝福が削られました。今の叫びにはあと1回くらいしか持ちこたえられないです!」
シャリーちゃんが声を張る。
先に進んでいるマイさんは振り向かず首を縦に振る。
「ザァーーーーップ!」
マイさんが叫ぶ。
「みんな、ザップを守るわよ。壊されたら戻せない!」
もうここからなら解る。いびつな石の柱の上には人間の石像が刺さっている。ザップだろう。
もし、この柱を砕いてここから逃げ去れば、ラパンとして誰も知らない所で平和に暮らせるのではないか?
僕はその考えを振り払う。
妖精ミネア、デルさんたち、リナちゃん、マイさんとアンちゃんの事が僕は好きだ。
みんな僕の、いやザップのために危険な事に躊躇いもせずに突き進んでいる。
誰としてみんな、心の中にはもしかしたら死ぬかも知れないと言う恐れがあるはずだ。それをそれよりも大事な事を強く思う事で乗り越えてる。
僕はみんなが大好きだ。
大好きなもののために戦う!
もし、僕が幻で消え去る事になろうとも!
もう、迷う事は無い。僕は武器を握りしめ走り出す。