ミノタウロス
次のフロアからはミノタウロスが出現するらしい。
歩きながらふと考える。牛ってホホ肉を食べたりするわけだけど、ミノタウロスは顔は牛なので、ホホ肉は食べられるのではないだろうか?
その疑問をそっと胸の中にしまう。その話をしたら多分誰かが実行するだろう。そして僕の収納の中にはおびただしい数のミノタウロスの頭が並ぶ事になるだろう。それだけは是が非でも避けたい。
「この次の部屋に1体いるわ」
デルさんの言葉にみんな足を止める。ホホ肉のことは忘れて、僕も一応予備のハンマーを出す。これは、竜の口の中に入っても壊れてないやつなんで、なんらかのギフトがついてそうではある。
「では、行きますっ!」
シャリーちゃんが扉を蹴って中に入る。
そして僕たちも後に続く。
雄牛の頭に筋肉質な体。遠目に見ても、背の高さは角まで入れたら2メートルはあるのではないだろうか?それに対して多分シャリーちゃんは150センチ前後、大人と子供くらいの体格差がある。
「しゃあーっ!」
シャリーちゃんは気合いを入れて走り出す。シャリーちゃんは自分より弱そうな者に対してはとても強気だ。あ、ミノタウロスも弱者認定されたのか。万が一もあるので、僕も駆け出す。マイさんとデルさんも走り出す。
「ブフーッ!」
ミノタウロスはなんか変な声を上げると持っていた巨大な斧を後ろに引き絞る。シャリーちゃんを迎え打ち、なぎ払うつもりだな。
さて、シャリーちゃんはどうするのだろうか?
打ち合いになったら間違いなくリーチの差で先に攻撃を食らうだろう。僕のみたところ、シャリーちゃんはスピードで勝ってはいるが、ミノタウロスも見かけたによらず素早いのでそこまでは差がないように思われる。
シャリーちゃんは右後方にハンマーを引き絞り真っ向から打ち合うつもりだ。まさに脳筋だ。
「でぇりゃーっ!」
シャリーちゃんは雄叫びをあげて突っ込む。間合いに入った!
ギィーーン!
金属の擦れる不快な音が鳴り響く。
シャリーちゃんが狙ったのはミノタウロスの斧だ。推力、体重、膂力ののった一撃はミノタウロス相手の斧を弾き飛ばす。シャリーちゃんはそのままそこで小さく回転すると、ミノタウロスの前に出た左足をハンマーで外から刈る。もう一度小さく回転する。
ゴンッ!
3回転目のハンマーが見事に転倒しかけたミノタウロスの後頭部を打ち抜く。そしてシャリーちゃんはそこでもう一度回ると飛び上がり4回目の追撃を放った。
ミノタウロスは吹っ飛ばされて動かなくなる。ミノタウロスを真っ向から力勝負で押し切った。
「うっしゃー!」
ハンマーを突き上げて勝利のポーズを決めるシャリーちゃんに僕たちは祝福の拍手を送った。