スライムたちの楽園
僕たちはなだらかな斜面を降りて行き、大きな部屋に出る。ここからは地下1層迷宮の内部だ。話によると、迷宮から魔物が溢れ出たらしいから、どの階層に何が出るかは解らない。ここからは以前はスライムしか出なかったらしいけど、気を引き締めていく。
けど、全くの杞憂だった。
ぷちゅーっ
目の前にいたスライムをマイさんが事もなげに踏みつけていく。あとにはプルプルした残骸だけが残る。なんか可哀想だ。全く生き物認定されてない。
「マイさん、それ、次はあたしもやってみたい」
シャリーちゃんが僕の横をすり抜けてマイさんに並ぶ。
「いいけど、慣れないと滑って転ぶから気をつけて」
しばらくして次出て来たスライムにシャリーちゃんが勢いよく駆けていく。
「てえぃっ!」
勢いよくシャリーちゃんはスライムを踏みつけるけど、踏みぬけない。
ずてーん!
マイさんの忠告どおりシャリーちゃんは後ろに転倒する。なんかバナナの皮を踏んでこけたみたいだ。正面から見てたらパンツ丸見えだっだろう。とどめにスライムが跳んできてシャリーちゃんの顔にまとわりつく。シャリーちゃんはそれを取ろうとじたばたもがいている。どんくさいな……
僕は近づいてスライムを掴んで投げ捨てる。
「やべー、スライム、あと少しで窒息するとこだった」
シャリーちゃんは地べたに座って肩で息をしている。
これは難儀だな、少しレベルアップして貰わないと、もしドラゴンに遭遇したら、その咆哮でショック死しかねないな……
マイさんが僕の方を見ている。多分考えている事は一緒だ。僕はマイさんの目を見て頷く。
「シャリーちゃん、これ持ってみて」
僕は愛用のミノタウロスのハンマーの柄をシャリーちゃんに差し出す。そしてシャリーちゃんがしっかり持ったのを確認して鉄球から手を離す。
「はうわっ!」
僕が手を離した瞬間、シャリーちゃんはハンマーを取り落とす。なんとかかわしたけど、あと少しで足の甲に落ちるところだった。
「こないな重いもん持てるかっ!」
シャリーちゃんは顔を真っ赤にしてる。けど、どうしよう。この成長補正があるハンマーをどうにかして使わせたい……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今よ、ラパンちゃん出して!」
マイさんの掛け声に合わせて、シャリーちゃんの手にハンマーを出現させる。近くの空間のものを出し入れ出来るのは僕だけなので、他の人には出来ない。
「ぎゃあ、おもいーっ!」
シャリーちゃんはへっぴり腰でなんとか持ちこたえる。
ふぎゅるっ!
なんか可愛らしい音を出して、スライムの上にハンマーが落とされる。レベルアップでシャリーちゃんがハンマーを持てるようになるまで、落としたハンマーにシャリーちゃんが手を添えるという方法で行くことにした。これによりとどめを刺した経験値がはいるばず。
けど、なんか見たことのある光景だ。そうだ、夏の風物詩、スイカ割りだ。川べりで水着でスイカや瓜を目隠しして叩くっていう遊びに見える。僕は目を細めながら、シャリーちゃんの雄姿を眺めた。