迷宮都市の迷宮の入り口
デルさんから遠くから見た時に何かは教えて貰っていたけど、そばに寄るとその建物の巨大さに圧倒される。
タワー、魔道士ギルドの迷宮都市支部があった所で、ラファの従兄弟のアカエル大公が治めていた所という。
今は近づかない方が無難だろう。その隣の巨大な墓石みたいな建物の冒険者ギルドの本部も僕たちは近づかない事にした。
まずは、迷宮に入って石化したザップになってるラファを助け出さないと。
大通りを抜けて、広場を横切り迷宮の入り口に向かう。回りに動くものは何一つない。冒険者ギルドに行けば、もしかしたら誰かいて何か解るかも知れないが、今は急ごうと思う。
それに、魔道都市に行ってるリナちゃん達も心配だ。強さ的には信頼しているんだけど、アカエル大公の石化の呪いに対しての切り札のシャリーちゃんがこちらにいるので、それに対しての不安が残る。
マイさんは、心なしか早足で進んでいく。大きく暗く口を開けているダンジョンの入り口に躊躇いなく入っていく。口には出さないけど、マイさんはザップの体の事が心配なのだろう。
もしかして、両思いなのかな?
ん、と言うことは僕と両思い?
なんか訳が解らなくなるので、その事は考えない事にした。
大きな入り口の脇には魔法のものと思われる灯りがついていて、奥は少し見えないけど、ある程度の視界が確保されている。入り口をくぐると少しひんやりしていて軽く身が震える。
誰が何か言うわけでなく、僕たちは自然に隊列を組んだ。先頭はマイさん、次は僕、シャリーちゃんが続いて、しんがりはデルさんだ。あと、妖精ミネアは真ん中くらいをふよふよ浮いている。
デルさんの強力無比な索敵能力があるので、まず奇襲を受ける事はないと思うけど、この隊列ならば前からでも後ろからでも襲撃を受けたとしてもすぐに対応出来る。1番気を付けるべきなのは、多分戦闘能力に乏しいと思われるシャリーちゃんを守る事だ。一撃死しない限り、エリクサーをシャリーちゃん以外全員扱えるので問題はないと思うが、危ない橋は渡らないに越した事はない。僕は警戒しながら歩いていく。
今歩いているのはなだらかな斜面で、マイさんは街中を歩いているかのように気負う事無くスタスタと歩いていく。けど、さっきよりは心なしかゆっくりになったような。多分シャリーちゃんを配慮してるのだろう。
うす暗い斜面を歩いていく。誰も妖精ミネアでさえも口を開かない。いままでの話から、もしかしたら深層には暗黒竜という強敵がいるかも知れない。その事がみんなに重くのしかかってるのかも知れない。僕は意を決して口を開く。
「逃げよう」
僕は呟く。みんな歩みを止める。
「今回の目的は石化したザップの体の奪還で、強敵に遭遇したら逃げよう。わざわざ危険を冒す事はないよ、強い奴はザップを復活させて、リナちゃん達と合流してからみんなでタコ殴りしよう」
僕は一気にまくし立てた。
「そうね、出て来た敵は全てあたしが倒してやろうと思っていたけど、強敵は逃げる。それでいきましょう。みんな無事に帰ることが1番大事よね」
マイさんが振り返って微笑む。もしかしたらマイさんでも緊張してたのかもしれない。僕のチキンハートが役立ったようでなによりだ。
僕の一言で、お通夜みたいだった僕たち一行は、逆にかしましいおばちゃんの井戸端会議みたいな雰囲気に変わって行った。