壁を越える
「どうやって城壁をくぐるかよね」
デルさんは扉の前で腕を組む。
迷宮都市の通用口の前についたけど、誰もいないその強固な門は閉じられていて、人力ではどうしようも無さそうだ。
ギギー!ゴリゴリッ!バキッ!
マイさんがふつうの扉を開くように押すと、扉はいとも簡単に開くというよりも奥の方に倒れていった。この扉って多分押すのじゃなくて引くやつだよね。
「ま、マイさん、大丈夫なのですか?」
僕はつい敬語になる。
「んー、多分弱くなって壊れかけてたんだと思うよ」
いや、そんなことはない。かなり強い魔物でも通れないように作ってあったはずだ。
僕たちはサードウォールを超えて迷宮都市の中に入る。大通りに面しては普通の建物が並んでいるが、その奥には、掘っ立て小屋や、朝露をしのぐためだけの建物と言うに恥ずかしいようなものがちらほら見える。人の気配は全くしない。
「ここにすんでた人達は何処に行ったのだろう」
答えを期待せずに口にする。
「あーね、魔物達は何者かに操られるように大通りを抜けて行ったらしいから、奥の方にはまだ人が住んでるはずよ」
妖精ミネアが僕に答えてくれた。よく見ると建物は入り口が壊されてるものが多く、戦火の跡をうかがわせる。
「そうね、遠くから気配を感じるから人がいない訳では無さそうね」
デルさんが言うから間違いないだろう。僕たちはセカンドウォールに向けて歩いて行く。
「今度こそどうやって進むかよね」
また、デルさんが腕を組んで考え込む。
僕たちはセカンドウォールの城門の隣の通用口の前に立ち尽くす。壁は高いので乗り越えるのは至難の業だし、今度は通用口は金属で出来た扉が付いている。上下開閉式で何らかの仕掛けをつかわないと絶対に開かないやつだ。
ドゴン!
ギギー! ゴーーーーン!
あーあ、またやっちゃったよこの人は…
大きな金属のすれる音の次にはそれの倒れる音。
マイさんのキック一発で解決した。けど、これって後で修理費とか請求されないだろうか?
「また、壊れてたみたいね。あたしのようなか弱い女の子がちょっと蹴っただけで開くはず・な・い・よ・ね!」
マイさんが僕たちに念を押す。これは逆らったらあかんやつだ。そうだ。この扉も壊れていたのだ!
僕たちは何事もなくセカンドウォールをくぐり抜け前に進む。ここからは普通の街並みだけど通りに面している建物だけ倒壊が激しい。
「ここに住んでたほとんどの人達は近くの都市に疎開したらしいわ」
ミネアがまた説明してくれる。誰もいない街ってなんか気味が悪い。アンデッドとかが沸いてきそうだ。
「東方諸国で1.2を争う国力の迷宮都市オリュンピュアもこうなるとなんだかねぇ」
シャリーちゃんが感慨深く辺りを眺めている。
「うーん、ここら辺は人の気配が全くしないわね」
デルさんは鋭い目つきで辺りを見渡す。
「ところで、デルさんの索敵能力ってスキルなの?」
僕は歩きながらデルさんに聞く。
「うん、そうよ、生まれつき持ってたスキルよ。あ、そうだ、スキルって言ったら、太古の迷宮踏破記念に飲んだスキルポーション何のスキルだったんだろう?」
「へぇ、デル達スキルポーション飲んだのね、あそこのはほとんどが剛力だけど、たまに当たりが出るわ。あたしが鑑定してみるわね」
マイさんが歩きながらデルさんを見つめる。マイさん、鑑定も出来るんだ。ほんと何でも出来るな。
「デルのスキルは、索敵、百発百中、剛力、思考加速、加速、魔法耐性、防御力上昇ね。どれか新しいものあった?」
「あ、防御力上昇って前はなかったです」
デルさんは少し嬉しそうだ。
「次、ラパンちゃんは、収納、火焔ブレス、剛力、自動回復、全属性耐性、全能力上昇、火属性魔法、アダマックス…多分幾つかはリナの魔道具によるものだと思うけど、アダマクスって何かわからないわ?」
マイさんは小首を傾げる。多分僕より年上だけど可愛いと思ってしまう。
「アダマックス?多分それが新しいスキルだと思うけど、訳わかんないよ」
僕はあまり運が強い方ではないので、大したスキルではないような気がする。
「今度、王都の冒険者ギルドで調べましょう」
マイさんに僕は頷く。
「アダマックス……なんか聞いた事あるような……」
シャリーちゃんがブツブツ言っている。シャリーちゃんが心当たりがあるけど僕ら誰も知らない言葉。正直なんなのか解らない。お手上げだ。
そうこうしているうちに、1番頑強な壁、ファーストウォールにたどり着いた。