迷宮都市への旅立ち
「マリアさん、それに他の皆様、今まで本当にお世話になりました。また、必ず戻って来ます。本当にありがとうございました」
僕はマリアさんを含む『みみずくの横ばい亭』の皆さんに頭を深々と下げる。朝起きて準備してこれから僕たちは旅立つ。
何も出来ない僕を拾ってくれて、お仕事とお金を与えてくれたここのみんなには感謝しても感謝しきれない。
必ずここに戻って来ることを誓う。
けど、多分、この旅が終わると、僕、『ラパン・グロー』は居なくなるだろう。
多分、僕は記憶を無くしたザップの見ている夢だから。記憶を取り戻したら消えてしまうだろう。そんな気がする。
僕は涙をぬぐうと、また最後に深々とみんなに頭を下げて、リナちゃんのワープポータルに入る。みんなが見えなくなるまで手を振りつづける。
溢れ出る涙は、別れの悲しみによるものなのか、この世から消え去る事への恐怖によるものなのかは僕はわからなかった。
辺りの景色が溶け去って、少しの頭痛と供に新しい景色が広がる。眩いばかりの光を放つ魔方陣から出ると、そこは岩に囲まれた窪地だった。前回のリナちゃん達の視察の時に何カ所かリナちゃんが設置してきたものだ。
僕が来た所は迷宮都市オリンピュアの近くの荒野だ。岩陰から出ると、その城壁が見える。
次々と魔方陣から今回迷宮都市の迷宮に向かうパーティーメンバーが現れる。
硬い皮の鎧に身を包んだマイさん、パーティーで最強のアタッカーだ。この世に生息するほとんどの生き物の首を斧の一振りで狩り飛ばすという。『首狩りのマイ』という本人が好まない2つ名をもっている。見た目は少し痩せ気味の猫耳の可憐な少女なだけにそのギャップは凄まじい。いつかあの耳をもふもふしたいものだ。
聖教神官の黒と白を基調とした修道衣に聖教神官の証である杖を手にしているシャリーちゃん。
今回の作戦の要の人物だ。僕たちが手も足も出ないアカエル大公の使う石化の呪いに対して、強力な祝福でそれを防ぐ事が出来ると言う。
聖教国で最高クラスの神聖魔法の使い手のみに許された奇跡だそうだ。戦闘能力は乏しいのでみんなでカバーする。
柔らかい皮のベストに緑色のワンピース、サラサラストレートの髪から尖った耳がのぞくエルフのデルさん。今回は迷宮攻略と言うことで、その卓越した索敵能力と罠探知能力、それとそこそこの戦闘能力。適材適所で探索メンバーに選ばれた。デルさんの戦闘能力でそこそこと言い切ったマイさんの強さはいかほどのものなのだろうか?僕の頭に太古の迷宮の深層でミノタウロス相手にジャーマンスープレックスを決めて、一撃で仕留めたデルさんの雄姿が浮かぶ。くわばらくわばらだ……
あと、最後に妖精ミネア。ふわふわと浮きながら魔方陣から出てくる。その可憐な姿はパーティーの心を和ませて、そのぶっ飛んだ考えのつまった脳みそは僕たちを心の底から苛立たせてくれる事だろう。あと彼女の持つ様々な嫌がらせ系の魔法は僕たちの力になってくれる事だろう。
迷宮都市に向かうのは、僕を含めたこの5人で、後のみんなは魔道都市の回りに集まっている魔物達の掃討作戦に参加している。全員を僕の収納の管理者にしているので、まず死んだりする事は無いだろう。警戒するのは石化の呪いだ。
リナちゃん達の攻撃メンバーの目的は魔物の掃討と、あわよくば魔道都市に潜り込み、導師ジブルと、魔法戦士ミケの奪還だ。
僕たちの一番の目的は石化したザップの救出だ。
僕たちはマイさんを先頭に迷宮都市へ向かう。