太古の迷宮最深部
「ねぇ、ラパンちゃん起きて、起きてってば」
誰かの声が聞こえる。駄目だ、まだ眠いよ。
「待ってよ、まだ朝になってないよ、暗いじゃない」
「ラパン、寝ぼけてるのか?ここには朝は来ない。迷宮の中だから。人のこと言えないが、こんなとこで寝てたら風邪ひくよ。せめて一端移動しよう」
「迷宮?」
僕は目を開ける。ぼーっとしてた視界と頭がすこしづつはっきりしてくる。誰かが僕をのぞき込んでる。線が細い耳がとんがった美人さんと、愛嬌のあるやたら胸のでかい女性。ん、そうだ、デルさんとルルさんだ。
僕はゆっくり身を起こす。体が鉛みたいに重い……
「駄目だ、おんぶしてー……」
「しょうがないわね」
僕はルルさんにおんぶされて、大部屋から噴水の部屋に戻った。大部屋には、ドラゴンの鱗や壊れた武器などが散らばっていたけど、全て無くなっていた。ルルさんが全部タブレットで収納に入れたそうだ。
ぎちぎちな体に鞭打って、泉のプールにそのまま入って汚れを落とす。服はぼろぼろなので後で着替えよう。
ルルさんもデルさんも服のままプールに入る。エリクサーのプールはひんやり冷たいけど、汚れがよく落ちる。
プールから出て、焚き火で暖を取りながら収納から食べ物を出して食べて着替えた。僕は予備の服を持ってないので、比較的服にダメージが少なかったデルさんの予備を貸して貰った。タンクトップにショートパンツで露出が多めなので少し恥ずかしい。
「げっ、これ絶対怒られるよね……」
タブレットで収納の中を整理しながら、一応確認のため、石になったアンさんを出してみたら、角が1本折れていた。多分僕の仕業だ。ドラゴンの歯を折ったつもりで、間違ったのではないか?
「まあ、謝るしかないわね。許してくれるわ、多分……」
デルさんが目を伏せる。罪悪感が少し心にひっかかるけど、とりあえずアンさんを収納に戻す。
「魔力がすっからかんだからもう少し休みましょう」
ルルさんはそう言うとタブレットから寝具一式を取り出していく。僕とデルさんも頷き布団に潜り込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アンさんの昔の仲間のお墓…」
ドラゴンと戦った部屋の奥に小部屋があり、塚に一振りの剣がささっている。これを抜いたら最深層に行けるそうだが、ルルさん達は触りたくないそうだ。せっかくだから僕が試すか。
『ウオオオオオオオーン』
剣を抜くと、辺りに慟哭が響き渡る。そして盛り土がスライドして下への階段が現れる。さすがに迷宮ライフも飽きてきたのでそろそろ帰りたい。不愉快に鳴く剣を手にさくさく下に降りる。
下に降りると大部屋で、4体の立派な装備をしたスケルトンが出迎えてくれた。デルさん達に聞いていた通りだ。
「お前が我々の……」
面倒くさいので、スタスタ近づいて口上の途中経過で全員にエリクサーをぶっかけてやる。みるみるスケルトンは溶けていく。除霊完了!
……もっと…かまって……
ん、風にのってなんか聞こえたような?
なんか干物を焼いたような臭いがするが、気にせずスケルトンの装備を収納に入れる。
「おおーっ!」
僕は金色の液体を湛えた小瓶を掲げる。スキルポーション3つ目だ。
「良かった。これで1人一個づつになったわね」
ルルさんがタブレットで収納から残りの2つを出す。そして1個をデルさんに渡す。
「では、太古の迷宮完全踏破を祝して乾杯!」
ルルさんが音頭を取り、僕たちは小瓶の蓋をとり『チン』とぶつけ腰に手を当てて黄金色の液体をキュッと飲み干す。まるでハチミツとジュースを混ぜたような濃厚で極上の味が口のなかにひろがる。美味しい!
金銭とかの感覚が麻痺してる2人に流されてしまったけど、スキルポーションって内容次第では街1つ買えるような値段のものもあるって聞いた事がある。
少し、いやかなり後悔しながら僕は最下層を後にした。