ドラゴン討伐作戦遂行
「グゥオオオオオーーーーーン!」
ドラゴンは天に向けて咆哮をあげる。
辺りの空気がビリビリ震え、体が硬直する。恐怖でドラゴンを直視出来ない。視界が狭くなり、地面が見える。戦いの最中に視線を外すなんて自殺行為だ。けど、本能による恐怖が体を支配する。
駄目だ!
完全に恐怖に呑まれたら体が動かなくなる。
ガタガタ震える体に活を入れる。
思い出す、収納の中のマイさんとアンさんを。
僕は何があってもあの2人を取り戻すんだ!
こんな奴ごときと遊んでる余裕はないんだ!
全てを取り戻す。残酷な世界を変えてやる!
「ウオオオオオオオオーッ!」
僕は叫ぶ。
僕は恐怖を怒りに塗り変える。
「はぁ……はぁ……」
何とか威圧効果のある咆哮を耐え抜き、息を吐く。危なかった。強すぎる威圧は弱い者をショック死させる事もあるという。
目を上げると、ドラゴンがこちらを見ていた。そのギラギラした目が動き一点を見据える。その先にはルルさんが……
ルルさんはその場に力無く座り込み、その目は焦点が合って無く中空を眺めている。ガタガタ激しく震えていて、その座っている所には水たまりが出来ている。
え、あの人ドラゴンスレイヤーじゃないのか?
もしかして威圧にたえられなかったのか?
何やってんだあの人は……
ドラゴンを見ると、一瞬目尻が下がり口角が上がったように見えた。笑ったのか?
その大きな口が開き、口腔内が光り、中で炎が渦巻く。
「ルルさん!」
僕は叫び駆け寄ろうとする。
ガシッ!
後ろから抱きつかれる。
「何するんだ!」
ちらりと振り返るとデルさんだ。
「ラパン。騙されるな。演技だ!見ろ、水は盾から出てる」
デルさんが耳元で囁く。ルルさんをよく見るとガタガタ震えるのはなんか貧乏ゆすりに見えない事もないし、盾をしっかり握っていて、その盾の下の方が濡れてるように見える。
「え、演技?」
まじか?演技なのか?
「グゥアアアアアーーーーッ!」
ドラゴンが叫び声と共に火炎を吐き、それが一直線にルルさんに向かう。
「いただきます!」
ルルさんはそう言うと、シュッと立ち上がり盾を前に構える。
悪女だ……すっかり騙された。まさか、失禁まで演出するとは、多分収納からエリクサーをたらしてたのだろう。なんか贅沢だ。
ルルさんの盾に余すことなく、ドラゴンのブレスが吸い込まれていく。
「ふん、ふふん、ふ、ふ、ふふん♪」
なんかルルさんから鼻歌が聞こえてきてる気がする。ドラゴンの必殺のブレスを受けているのに、あの人は心臓に剛毛が生えてるのか?
「呆けてないで、準備するぞ!」
「キャッ!」
デルさんに足を掴まれる。そして僕の回りの景色がぐるぐる回り始める。ああ、またジャイアントスイングなのか……しくじったら確実に地獄になる奴だ……
ぐるぐる回るなか、首をしっかり上げて一定の周期毎に見えるドラゴンをしっかりと見据える。
炎吐いてる、吐いてる、吐いてる、吐いてる、吐いてる、吐いてる、長いわ目が回る!
吐いてる、吐いてる、吐いてる、吐いてない!
来た!
「ファイヤー!」
デルさんの気合いを背に僕は射出される。空中で一瞬にして態勢を立て直しハンマーを大上段に掲げる。ドラゴンの顔目がけて一直線だ。目の前に迫った眉間目がけて渾身の力を込めハンマーを振り下ろす。
「うぉりゃーっ!」
ベストタイミングだ。僕は勝利を確信した!
バクン!
ビジュルッ!
手に伝わって来た感触は柔らかく、僕の視界は闇につつまれた?