作戦
「あたしが前に出てブレスをこのポータルシールドで受けて、デルがラパンちゃんをぶん投げて、眉間をハンマーで叩く!」
ルルさんは右手に盾、左手にミノタウロスの斧を構えている。盾は大きめで円形で、表面にはポータルの魔方陣が描かれている。収納から出したポータルをいじっていたら出来たもので、ポータルにあたったものを吸い込むという画期的な盾だ。名前はそのままポータルシールドにした。これって結構チートなんじゃないかなと思う。
ドラゴンも動物である以上、急所は存在する。デルさんに教えてもらったが、眼窩の上の中央部分は印堂と言ってうまく砕いたら一撃で動物とかを葬る事ができるツボだと言う。戦闘訓練では絶対叩いていけない急所だそうだ。エルフって本当に物知りだと思う。数千年に渡って様々な知識をためこんでるらしい。
2人の話によると、かつてザップがドラゴン形態のアンさんをそこを叩いて一撃で倒したと言う。多分普通にドッグファイトを繰り広げたら、危険であると同時に、僕たちの攻撃力ではかなりの長期戦になるのが予測される。
それで、1発に賭けて失敗したら離脱する方向で行く事にした。
通路を歩いて行くと開けた所に出た。左右の遙か遠くに壁が見えて、正面は奥行きが見えない。
僕は緊張で固まっているのに、ルルさんは斧と盾をだらんと下げて普通にスタスタと歩いて行く。
「あの、緊張とかしないんですか?」
「ん、緊張もなにも相手はでかぶつで来たらわかるし、あたしたちの方が多分足が早いから危険はないと思うから」
前を向いて歩みを止める事無く声をかけてくる。
「それに、いないかもしれないしね」
デルさんが後ろから僕の頭をぽんぽんする。
正直緊張するし、居ないなら居ないでいっかなと思い始めたけど、即座にその期待は裏切られる。
ゴゴーッ!
ゴゴーッ!
部屋の奥の方からでっかいいびきのような音がする。
多分ドラゴンだろう。もしかして寝てるのか?
ルルさんは一回振り返り頷くと、いままで通りスタスタと歩いて行く。けど、その足音がしなくなる。僕たちの足音もしない。
魔法を使ったんだな。音がしなくなるやつ。地味だけど便利な魔法だと思う。
奥の方に小山のような影が見えてくる。近づくとそれが音に合わせて動いているのがわかる。細部も見えてくる。トカゲのような巨大な体に不釣り合いな小さな羽。全身は鱗に覆われていて、その頭には2本の角。
僕は緊張に震える。伝説の最強生物、ドラゴンだ!
ドラゴンは首を曲げて、肩に乗せて寝息を立てている。ルルさんが立ち止まり、足を開き重心を落とし構える。その左手から大きな斧が投擲される。
ギィーーーン!
乾いた金属が擦れ合うような音が響き渡る。斧はドラゴンの閉じた目の下に命中した。あと少しで目に刺さる所だったのが、竜の呼吸の上下運動により運悪くそれた。
ドラゴンは目を開き首をもたげ立ち上がり僕たちを見下ろす。
ギラギラした目に睥睨され、僕は口から心臓が飛び出しそうになる。
ルルさんの一撃を皮切りに戦闘が始まった。