覚醒荷物持ち
部屋に入ると今までより一回り大きいトロールが立ち上がりのそりと動き始める。どうやら岩に座ってたみたいだ。その右手には錆びた金属で出来ている、僕の背丈くらいはある刺のついた棍棒みたいなのを持っている。
僕の戦術は限定されている。ハンマーはその武器の性質上、攻めるには易く、守るのには難い。先手必勝の武器だ。ただ攻撃あるのみ。
僕は自分の背丈の倍程あるその巨体に向かい駆けよる。このトロールは禿頭で全く頭髪がない。正直その方が好感度が高い。まぁ、好感度も何も今から戦うのだが。
近づきながら考える。どう戦うか?頭か心臓を潰すしか無いわけだけど、心臓は叩いた瞬間無防備な頭を曝す事になるのでなしだ。背中側に回れた時は一考の価値ありだ。従って頭部を叩く事になる訳だけど、跳び上がって唐竹割りは無しだな。相手の身体能力次第ではかわされて無防備な着地を狙われる。
と言う訳で、やる事は決まる。出足ばらいからの振り下ろしだ。
出足ばらいとは、歩いてるときなどに前に出した方の足に重心がかかった瞬間に足を払って転倒させる技だ。剣でつばぜり合いから引いて崩したり、斧槍などの棒状武器などで使われる東方由来の技だそうだ。東方武術はエルフのデルさんの十八番で色々教えてもらっている。少しづつだが戦い方が判って来た気がする。
僕とボストロールがエンゲージする瞬間、ボストロールの重心移動を確認しその左足が前に出る瞬間に加速する。僕は右利きなので、右から左に薙いだ方が力が入るから左足を狙う。ボストロールは大上段に棍棒を振り上げるが、遅い、遅すぎる。僕は地面すれすれを這うかのように進みその左足に一撃を加えようとする。姿勢を下げるのは振り下ろす攻撃に対して下策におもえるかもしれないが、足を刈ったらその動線に入らないので問題ない。
ガツッ!
僕が足を狙ってるのを察知したのか、ボストロールは踏み込みを早め大地についた足に僕のハンマーがめり込む。即転倒にはならなかったが僕は力で足をなぎ払う。ハンマーが肉片を撒き散らし、ボストロールの足は力技で払われてボストロールはバランスを崩し背中から倒れそうになる。僕はハンマーを振り抜き勢いを殺さずそのまま上段まで引き上げ落ちてきたボストロールの顔を目がけて振り下ろす。ボストロールは頭から転倒し、僕のハンマーと床に挟まれて潰れる。
転倒した者を床を挟んで踏みつぶすのは下手したら子供でも大人を殺傷する凶悪な技だ。
大地と僕のハンマーに挟まれたボストロールの頭部は容易に爆ぜた。気持ち悪い感触が手に残るが、これも生きていくためだと自分に言い聞かせる。
「おっしゃーっ!」
僕はハンマーを天にかざす。着実に僕は強くなっている。その実感に胸が震えた。