森の悪鬼との戦い
ここしばらくはとても忙しく、投稿時間がランダムになりますがよろしくお願いします。
「次も多分一体、ラパンちゃん頑張ってね」
デルさんについと背中を押され部屋の中にたたらを踏んで入り込む。
濃い緑色の巨大な体躯に丸太のような腕と足、背丈に比べたら短い手足だが、決してコミカルではない。撫でつけた髪にギラギラ光る目、乱ぐい歯が遠目に見え、僕が視界に入ったのか大地を揺らし近づいて来る。
あ、無理だこれ、絶対無理だ生理的に……見た目デッカい汚いおっさんじゃん、よく街の川べりとかにボロボロな服着て寝てる人にそっくりだ。さっきデルさんが戦ったときは詳しくは見えなかったけど、無理無理絶対無理、間違いなく汚くて臭い奴だ。よくデルさんあれに触れる事ができたな……
そんなことを考えてるうちにどんどんでっかい汚いおっさんは近づいてくる。案の定饐えたような臭いがする。とりあえず身を翻し来た方に戻る。
「ダメ!ラパンちゃんトロールと戦うのよ!」
僕の目の前をルルさんが両手を広げて通せんぼする。うん、絶対戦うのならこっちの方がいい。僕はそのまま突進する。
「え!」
ルルさんの目が驚きに開かれる。まさか突っ込んで来るとは思わなかったのだろう。
「逃げるなーっ!」
デルさんの声が聞こえて、ルルさんに衝突する寸前、何かに足を掴まれる。デルさんだ。僕はそのまま宙を舞い視界が回り気が付くと目の前にトロールが!
無我夢中で振り回したハンマーがちょうどその頭に当たる。それでどうにか行く手を遮るものが無くなり、僕は思いのほか遠くまで飛び、身を翻してなんとか着地する。振り返ると遠くに首から上が無いトロールが見え、ふらふらして倒れ、その横をデルさんとルルさんが走ってくる。
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「まず、なんで逃げたの?」
正座してる僕にルルさんが優しく問いかける。
「すみません、無理です。汚いおっさんだけは無理です」
「ラパンちゃん、汚いおっさんじゃなくて、トロール。言ってみて」
ルルさんは目が笑ってない。
「トロール」
僕は危険を感じ本能的に素直に従う。
「ラパン、しょうがないわね、誰でも苦手なものはある。私もオークは苦手だし」
ん、苦手?
豚・即・斬って言って狩りまくってたのに。本当は好物じゃないのか?
「けど、強くなるためには克服しないとね、要はラパンがトロールをたおせばレベルアップは出来るはず。私にいいアイデアがあるわ」
デルさんはそう言うとポムポムと僕の肩を叩いた。
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「次の部屋に一体いる。ラパン、しっかりハンマーをもって頭の上に上げて」
デルさんは僕に微笑みかける。僕は嫌な予感がするが逆らうと怖いので、しょうが無く言われた通りにする。
「え!」
僕の両足を持ってデルさんが持ち上げる。
「行くわよ。ラパン、モーニングスター!」
「ギャアアアアアッ」
僕の視界がぐるぐる回る。もう訳が解らないがどうやら僕は足を掴まれてデルさんにぐるぐる回されてるのではないか?
視界にチラリとトロールっぽいものが見える。高速で動いているから、しっかりとは判別できない。
頭に血が上り、意識が遠くなる。
フッと意識が遠くなりついハンマーを離してしまう。
「ラパンちゃん!」
ルルさんの声で意識がはっきりし、辺りの景色がゆっくりと回る。これってもしかして死ぬ前に見るという走馬灯ってやつではないか?
僕にゆっくりとトロールが近づいてくるのが見える。デルさん、これってハンマー持ってても僕はトロールにぶつかってるじゃん。僕は咄嗟にその汚い頭を掴む。デルさんはそのまま僕とトロールを振り回す。なんつー馬鹿力だ!
「ラパンちゃん離して!」
ルルさんの言葉に僕は手を離すと遠くにトロールは飛んで行った……
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「ラパン、次はしっかりハンマーを持っとくのよ」
デルさんが優しく僕に微笑む。遠くの壁にトロールだったものが張り付いているのが見える。一歩間違えたら僕もああなってたのでは……
デルさんはパーティーで一番非力だと言ってた。その腕は華奢で、箸も持てないのではと思える程だ。けど、実際は人外だ。頭の中も人外だ。
「デルさん、ボク、1人で戦うヨ……」
言葉が恐怖でカタコトになってしまう。
壁に深々と刺さったハンマーを何とか引き抜く。
「良かった。トロールの苦手意識を克服出来たのね」
ルルさんが優しく僕に微笑みかける。
違うわ!
お前らよりトロールの方が百倍可愛いわ!
気弱な僕は、その言葉を僕は飲み込んだ……