野蛮隊の冒険 勝負飯 2
「ザップさん、なんで止めるんだい。オイラ、ただチューさいしようとしてるだけだよおう」
パムが愛くるしい顔で上目づかいに見てくる。まじ、見た目は可愛いんだよな。天使、髪を伸ばせば美少女に間違われる事だろう。けど、口を開けばオッサン、下ネタ駄洒落好きの生き物なんだよな。
僕は腕に力を込める。今、こいつ、振りほどいて行こうとしたな。
「ダメだダメだ。仲裁じゃなくて火に油注ぐだけだろ。たまには大人しく見とけ」
パムを握ったまま、騒ぎの方を観察する。
多分、流れで王都に来たソロの女戦士に、これもまた流れで王都の日が浅い男所帯の冒険者パーティーの一人が絡んでるみたいだ。女戦士は東方っぽい格好をしている。刀を帯び、鎧には草ずりと呼ばれる肩当てと、大袖と呼ばれるスカートがついている。和国の鎧にはそこまで詳しくないんだけど、小札と呼ばれる四角い小さな板に穴をあけて縫い合わせて、防御力もあり動きやすい鎧になってる。
一方、パーティーの方は帝国から流れて来たんだろう。帝国式の鎧、量産型のチェインメイルに型押しの板金で肩当て胸当てがついたのをいじったものを全員着てる。男四人全員戦士か。多分傭兵崩れだな。帝国、最近は平和だもんな。
「いちいちうっせんだよ。おら、行くぞ、ここにもあんだろ決闘場」
女戦士が多分絡んだと思われる男に顎で言う。大丈夫か? 男四人相手に。強いのか? 強気なだけなのか?
「ああついてこい」
男が奥へ歩き出そうとする。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
あ、正午の鐘だ。
「おいっ、見守ってやれよ」
僕の手から逃れたパムが。まるで渓流を泳ぐ魚のように滑らかに机の間を通り抜け二人の前に立つ。
「兄さん、姉さん。正午だ。飯の時間だ」
「んだよ。このガキは」
「坊や、ここは子供の来るとこじゃないわよ」
うわ、二人とも王都に今日来たばかりなのか? パムを知らない人間はこのギルドに、いや王都にはいないと思われる。最近はパムと一緒に街を歩いているだけでそこらの奥様方にヒソヒソ話されるレベルにまでなってる。パム、何をしたらそこまで名前が売れるんだ? この世には、魔王武器、勇者武器と呼ばれる人の想いを力にするものがある。変態武器ってものがあればパムってめっちゃ強くなるんじゃないのか? けど、その武器は間違いないドン引きするような形をしてる事だろう。
「そうだよ。オイラ、可愛い子供だよぉ」
他の暇してる冒険者たちから失笑が漏れる。彼らがパムのオモチャになる未来が見えたからだろう。
「けど、色々知ってるから教えたげるよ。ここじゃ飯時一時間は職員さんが休憩するから、訓練場は使えないんだよぉ。ほらほら座って、決闘の前にご飯だよ。今日のとこはオイラの奢りだ。好きなもん頼みなよ」
「おい、お前、今、どこからそれ出した?」
男がツッコむ。パムの手にはメニューが二つ出現してる。
「いいから、いいから、座って座って」
パムに気圧されてか、未知への戸惑いか、二人はテーブルに座ってメニューを渡される。それと近くのテーブルで賭場が開かれる。ここでは、決闘に賭けるのは合法だ。久しぶりみたいで盛り上がってる。
決闘の前の食事は勝負飯と呼ばれている。外野はそれを見て賭けの判断材料にする。もう戦いは始まっている。全力の決闘の前に何を食べるか。それは決闘者の胆力のバロメーターでもある。
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