ゴールデンウィンド 終
「うわぁ。さすがですねー。アレフ様。こちらが報酬になります」
見目麗しい冒険者ギルドの受付嬢が、アレフにずっしりと金貨が詰まった袋を渡す。通常の討伐ではかなりレアな事だ。はぐれトロールの討伐報酬はキャリーオーバー気味で膨れ上がってた。
「まあな、楽勝だったぜ」
アレフは中も数えずにそれを受け取る。ギルドへの信頼と言うより、見栄なのだが、それを見越した嬢に当然のように抜かれている。
「ところでぇ。前々から思ってたんですけどぉ。パーティー名の『ゴールデンウィンド』ってどんな意味なんですかぁ?」
嬢はアレフを持ち上げるために話しかける。本当はどうでもいいと思ってるけど。
アレフは見目はいいけど、アホすぎる。普通冒険者は底辺から時間をかけて這い上がる時に、慣習や常識を先輩から叩き込まれる。急な出世でそれをすっとばしてきたアレフたちは、戦闘力以外は激低だ。ダニーは畑違いの傭兵。引き篭もりがちだった魔法使いと、軟禁状態だった聖女。全員一般常識がまるっと抜け落ちている。
「んー、パーティー名か?」
アレフは髪をさらりとかき上げる。
「俺の事に決まってるだろ。俺は風。世界を震わせ駆け抜ける金色の風だ。俺が、俺の仲間たちが『ゴールデンウィンド』だ!」
「うわぁ。すごい。すんごーーい」
ギルド嬢は拍手する。いつの間にかギルドのフロアでアレフは耳目を集めているが、その軽蔑の眼差しを賞賛だと勘違いしている。
「はっはー! 俺をもっと見ろ。今日は奢りだ。飲め! 飲んで飲んで飲みまくれーっ!」
大盤振る舞いも大好き。散財しまくるが、彼らはそれを追い越すくらい稼いでいく。
そしていつしかアレフは勇者と呼ばれるようになり、その強さ故にそれを諌める者、教育できる者も居なくなった。
「お前、便利だな、俺が使ってやる」
ある日アレフは一人の荷物持ちを捕まえた。実はそれが、彼らをステップアップさせたきっかけだった。様々な雑用や対外折衝、面倒くさい事はすべて荷物もちがさせられた。傍若無人なアレフたちに不満がある人は多かったが、その矛先は無力な荷物持ちに全て向かった。荷物持ちにとってはたまったもんじゃないが、それが、パーティーが上手く行ってた理由だった。
「役立たずのクソ野郎! お前を『ゴールデンウィンド』から追放する!」
アレフは荷物持ちを追放した。そして、力があるだけのゴロツキと変わらないパーティーに戻った。社会との窓口が無くなった彼らが社会から必要とされなくなるのに、そんなに時間はかからなかった。
END
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