ゴールデンウィンド 1
「おい、アダム、こっちは終わったぜ」
綺麗に剃り上げた頭をペチペチ叩きながら大男は少年に話しかける。その体の至る所に血が付着している。
「ダニー、アレフだ。今から俺はアレフだ」
少年、アレフは血に汚れた剣を振り取り出した汚れた布で拭う。辺りには数匹のゴブリンの屍。
「ん、なんだそりゃ。お前、名前変えるのか?」
「ああ、アダムも最初の男って意味だが、なんか土くれって意味もあるらしいからな。俺は土くれが嫌いだ」
アレフの心に去来したのは、幼い日々。生きていくために土を耕し、種を蒔き、雑草を抜く。そうやって作った畑は今は荒れ地だ。
「そうか、アレフか。で、なんて意味なんだ?」
「初めて、始まりとかそんな感じだ。俺は誰も成し遂げてない初めての事をして、この世の数え切れないほどの美女の初めてになる。この俺に相応しい名前だろ」
「ああ、そうだな。じゃ俺は二番手だ。おめーが一番なら俺は二番をもらう。一番ってなんだかんだ大変そうだかんな」
「おお、いいぜ、だが女は譲らんからな」
アレフは笑いながらダニーの肩を叩く。
「ハッハッハ。そりゃあたりめーだ。俺は素人には興味ねーからな」
ダニーはプロが好きだ。一般の女性はその巨躯と厳つい顔に恐れをなすが、プロはちやほやしてくれるからだ。
「冒険者様ありがとうございました」
村の代表が駆け寄ってくる。この村はゴブリンからの略奪に悩まされていた。村には金がなく、そのなけなしの金で依頼した冒険者が鬼神の活躍で全てのゴブリンを退治してくれた。たった二人で三十数匹を斬って捨てた。そして、その二人は追加の対価も求める事なく村から去っていった。
◇◇◇◇◇
ダニーは元傭兵、世界各地を戦で駆け回り、所属してた傭兵団が負け戦で壊滅して、とある町で冒険者に鞍替えした。そこにやってきた少年に模擬戦を挑まれた。少年はなんとか剣を握れるような素人。立ち居からダニーは判断し、軽くいなしてやろうと思ってたが、それは驚愕に変わる。天才、紛う事なき天才。明らかに素人だった動きが数合交えるうちにダニーに劣らぬ動きになり、長い打ち合いの末、剣を突きつけられてたのはダニーだった。十数年の研鑽を目の前の少年は十数分で追い抜いていった。
だが少年は慢心する事なく、ダニーに頭を下げ、仲間になって欲しいと言う。即答だった。ダニーは凡人だ。努力に結果が追い着いてこない。このままだったら凡庸な男で終わるだろう。けど、この少年は違う。ついて行けば見た事がない世界に連れて行ってくれるかもしれない。
そして初めて二人で受けた依頼。十数匹のゴブリンの討伐のはずが蓋を開けると三十数匹。ダニーだけだったら逃げ出しただろう。けど、微塵も怯む事なくアダムいやアレフは戦った。
こいつってもしかして伝説の勇者になるんじゃ? いや、なるに決まってる。
ダニーの心には風が吹き始めた。
セブンネットでの高順位、一日だけでした。けど、一日だけでも嬉しかったです。憶測ですけど、どなたかが大量に買ってくれたのでは。感謝です。




