ザップ・グッドフェローの憂鬱 おわり
「ガッ、ウゴゴッ」
いかん、つい痛みに声が出てしまった。
「すみません、痛かったですか?」
お姉さんが離れる。少し痛かったけど、首を横に振る。こんなの魔物に噛まれたり殴られたりするのに比べたらなんてことない。
「大丈夫です」
そして、また癒しの時間が戻ってきた。お姉さんの体温を感じながら、目を瞑って口の中をいじられる。いろんな事を考える。今日の御飯の事や、明日からの仕事の事。最近は日帰りの仕事ばっか選んでるから、たまには泊まりの仕事もいいかもな。
あ、また当たってる。よこしまな事は考えない。これは治療だ。治療、治療。不謹慎だけど、わかる。パムが言ってたけど風俗で病院そっくりな造りで看護師さんを相手にする所は、鉄板で人気があるって。行った事ないけど。
「はい、終わりました。うがいしてくださいね」
終わったか……
お姉さんは離れて、椅子が戻り、紙コップに満たされた水で、口を濯ぐ。当然ガラガラ言わせないし飲まない。吐いた水には、小さな骨の欠片みたいなの。再度思う。あんなんが歯にこびりついてたのか。なんとも言えないな。舌で歯に触れると、ガザガザで少しスカスカしてる。まじか、歯石でかなり歯が大きくなって、歯と歯の間埋めてたのか。
そして、先生がやって来る。他の椅子にも患者さんがいて、今まで、順次対応してる声が聞こえてた。大変だな。
先生に言われて口の中をみせる。
「ザップさん、今日は終わりです。綺麗になりましたね、歯石はとれてます。また次は三ヶ月後についてる所を取りますのでよろしくお願いします」
「歯磨きで、歯石がつかないようにできないんですか?」
最初とちがって歯医者さんへの忌避感はないけど、また来たい気もするけど、一応聞く。先生忙しそうだし、少しでも負担を減らせればと。
「そうですね、しっかりとした歯磨きで、減らす事はできるんですが、どうしても奥歯と奥歯の間とか、奥歯の裏とかには溜まりがちですね。虫歯になる人って奥歯が多いんですよ。前の方の歯は磨きやすいけど、奥歯はどうしてもですね。三ヶ月後に状態を見ますので」
そういえばそうだな。歯が痛いって言ってる人はほっぺた辺りを押さえてるイメージがある。前歯押さえてるの見た事ないな。
「わかりました」
そして、お姉さんによだれかけを取ってもらい、席を離れ、受付で会計して、次の予定日が書いてある診察券を貰って帰途についた。
◇◇◇◇◇
「ザップ、どうだった?」
家に帰ると、リビングでジブルが寛いでた。
「まあ、少しは痛かったけど、歯を抜くのに比べたら大した事ないな」
「違うわよ。サービスの事よ。ゴーレム何体も居たでしょ」
「ゴーレム?」
もしかして、僕が座ってた動く椅子とか水を出すのとかがゴーレムだったのか?
「え、もしかして気付かなかったの? ザップなのに」
「どれがゴーレムだったのか?」
「先生と受付以外の助手は全部ゴーレムよ。幻覚系の魔法で患者の好みの姿になって、表情を読みながら期待してる行動をするようにインプットしたのよ」
ん、インプット? じゃ、ジブルが制作にも関わったゴーレムだったのか? え、じゃあ、あれって、幻覚で僕の願望だったのか! いやいや、そんなはずはない。所詮ゴーレム、精度が悪いに決まってる。決して僕はお姉さんに当てて欲しいとは思わなかったはず。
けど、迷うとこだ。たしかに歯医者への苦手意識は消えた。けど、治療してくれるのはゴーレムな訳だよね。どうしよう、三ヶ月後にもまた行く事にしよう。
「キャハハハハハハハッ。おもろ。無表情なザップの焦る顔って、見てるだけで、何杯もいけるわ。嘘よ。嘘に決まってるじゃん。そんなゴーレム、お金が幾らあっても足りないわ」
え、嘘? まじか?
「本当に嘘なのか?」
「わっかんなーーい」
「んー、今度言った時に確かめるしかないな」
「あー、ザップが歯医者に行きたがってるなんでなんだろーなー」
もしかして、なんかして見てたのか? くぅ。こいつウザい。叩きたい。けど、我慢。あいつに物理は効かない。骨になって再生するだけだ。
「しょうがないだろ。歯石が溜まって虫歯になるのは嫌だからな」
「ま、ザップがスケーリングに目覚めたみたいだから良かった。次はアンね」
まじか、あのどらドラゴン、歯医者から逃げてるのか? しょうがないな。パムのお勧めの歯医者にぶち込んでやるか。
なんだかんだで、次に歯医者さんに行くのが楽しみだ。お姉さんがゴーレムなのかどうか確かめないとな!
なんと、昨日、セブンネットさんの、ライトノベル少年のランキングで、8位まで上がりました。下には『リゼロ』や『だんまち』も。私が大好きな作品です。まあ、一時的なものだと思いますけど……
嬉しい!!!!!
そして、
皆様、ありがとうございますm(_ _)m




