書籍発売記念! SS 信頼
「夢か……」
僕はリビングのソファで目を覚ました。一瞬どこで何をしてたか訳がわからなくなったが、すぐに把握した。向かいには本を手にしたマイが見てる。
「どうしたの? ザップ」
「別になんでもない。夢、みてた」
「どんな夢?」
「昔の夢だ……」
今でも、よく夢にみる。落とし穴に落ちてから一人で徘徊してた時の事を。
前に夢は己の願望をみると聞いた事がある。あれが願望なのか? 痛い、暗い、臭い、寂しい、空腹、良い思い出が微塵もない。けど、願望なのだろう。僕はまだ求めている。自分が強くなる事を。僕は力が欲しい。この世界で幸せに行きていくために。誰かが、言ってた。幸せは、お店で自分が買いたいものを買えるくらいでいいと。僕もそうだ。別にお城に住みたいとか、貴族になって領地収入で生きたいとかそんなのはない。今、周りにいる仲間と、自分がやりたい事をしながら、お金に困る事なく楽しく生きていければいいと。けど、自分がやりたい事で生きていくのには、力、圧倒的な力がいる。そのためには、毎日、今日より明日、明日より明後日、少しでも強くならないと。
「よかったら、聞かせてよ」
マイの言葉で我に帰る。考え込むのは僕の悪い癖だ。
「別にいいが、面白くも楽しくもないぞ」
「あたしは聞きたいの」
いがにマイは、言いだしたら聞かないからな。
「そうか。あれは、俺がアンから逃げて、ミノタウロスを倒して、その上の階をウロウロしてた時の事だろな……」
◇◇◇◇◇
ミノタウロスのフロアから上がり、ヘルハウンドの猛攻をしのぎ、生肉で餓えも満たされた。
強くなると決めたものの、どうやって強くなるかだ。収納にはドラゴンブレスが入ってるがそれも有限だ。もってる武器は、どうみても人には扱えない巨大なハンマーと斧。どちらともなんとか振り上げる事はできるが、振り下ろしたら持ち上げるのに時間がかかる。けど、その重さは利点だ。収納を使って、敵の上に出して落とすだけでかなりの破壊力が出るだろう。なら、ハンマーだな。斧は刃を立てないとだけど、このハンマーは球にトゲがついたものだからそれは考えなくていい。僕はハンマーを収納から出して柄をにぎり振り下ろすというより、落とす練習をする。そして、獲物を求めて進む。
考えが甘かった。ヘルハウンドはデカくて火を吐くだけじゃなく素早い。ノロノロなハンマーが当たる訳もなく、最初のうちはブレスに頼るしかなかった。転機は、噛みつかれた時だ。腕に噛みつかれて、もう片方の手でハンマーの実を掴んでなんとか撲殺できた。これからしばらくは、その噛みつかせ殺法で泥仕合を繰り広げた。エリクサーで治るとは言え地獄のような痛みと恐怖だった。今でも実はでっかい犬は嫌いだ。ていうか本当は怖い。
そのエリアで見つけた噴水がある部屋を拠点にヘルハウンドと戦う、血塗れになり水浴びするを繰り返していくうちに、なんとかハンマーを素振りできるようになった。途中で瓶に入った金色の蜜、甘いものをとったから、力がでるようになったんだとその時は思ってたが、あれは多分『剛力のスキルポーション』だったんだろう。
そして、ハンマーを振れるようになっただけで、泥仕合はかなりマシになった。
それから僕は、素振りする、ヘルハウンドを倒す、生肉食う、寝るを繰り返し、徐々に迷宮を侵略していった。
本当は、立派な剣を振るう格好いい英雄になりたかった。けど、僕には剣は無かった。それにそもそも扱い方を知らない。
ハンマー最高!
ハンマー最高!
そう自分に言い聞かせながら、素振りをする。少しでも早く、少しでも強く振れるように。その先には幸せがある事を信じて。
僕が生きてく術はこれしかないのだから……
読んでいただいて、ありがとうございます。
皆様のお蔭で、無事、出版できました。とってもとっても感謝してます。
書籍を手にとっていただいた方、この場で恐縮ですが、本当に、本当にありがとうございます。
いっぱい、いっぱい話を書きたい。けど、生活するためには働かないといけない。執筆の収入が増えると、書く時間をとれます。そのためにはより良い作品を書くことです。より良い作品を書くためには、毎日、少しでもスキルアップする事ですよね。
五年近く、ほぼ毎日、何らかの話を書いてきました。少しは良くなったのでしょうか? 自分ではわからないけど、やれる事はザップさんが毎日素振りをしてるように、毎日、少しでも前に進むことだと思ってます。
これからも頑張りますので、今後ともぜひよろしくお願いします。




