ザップ・グッドフェローの憂鬱 6
「では、うがいしてください」
助手のお姉さんが離れて、椅子が起き上がる。うがい? なんで? もしかして僕の口が臭いのか? 来る前にちゃんと歯磨きしてきたし、臭いがある食べ物は昨晩から食べてない。
左手の水が出る魔道具が、紙コップを満たす。紙コップは使い捨てなのか? 贅沢だな。まあ、けど、僕は綺麗だったら気にならないけど、御貴族様とか潔癖症な人は絶対に人が使ったコップはヤダって人もいるからそれ対策だろう。僕はコップに手をのばす。
「ガラガラガラガラガラガラ」
長めに配慮して音は小さめにうがいする。これ、どこに吐き出すんだ。飲むのか?
「ゴクン」
なんかザラザラした水だな。こんなお洒落な歯医者さんなのに、水に砂が混じってたのか? ちょっと幻滅だ。今日び冒険者ギルドでさえもっとマシな水を出すぞ。
「プッ」
振り返るとお姉さんが口を押さえている。僕、なんかおもろい事したか?
「ザップさん。飲んじゃダメです。コップの隣は水が流れますので、そこに吐いてください。ごめんなさい、説明不足でしたね。あと、うがいはガラガラうがいじゃなくてクチュクチュうがいでお願いします。私がとった歯石が口に残ってるので、吐き出してくださいね」
クチュクチュうがい……
何も考えるな。クチュクチュするのは口だ。お姉さんのお蔭で、若干僕の明晰な頭脳がバグってる。
「はい……」
そうだよな。よーく考えると、こんなとこで喉を綺麗にする必要ないよな。それに、歯石をとったんだからそれを出すのは道理だ。どうも、お姉さんのさっきの攻撃で平常心を失ってたらしい。元の場所に戻した紙コップに水が満たされる。それをとってリベンジだ。僕のうがいを見せてやる!
「クチュクチュクチュクチュ、ペッ」
うげ! なんだこりゃ! 血に混じってくすんだ骨の破片みたいなのがある。げ、これ飲んだのか? お姉さんは下の歯をいじってたので、舌で舐めてみると、なんかザラザラしててスカスカしてるような。歯が減った? 歯が小さくなった? もしかして、僕が歯だと思ってたものの一部は歯石だったのか? 以外にデカい。ちょっとショック。飲み込んだのはもっとショック。
「大丈夫ですよ。初めて来たお爺ちゃんが水を飲んじゃう事、たまにありますから」
フォローになってないよ。僕はお爺ちゃんか……
「けど、ガラガラうがいは初めて見ました」
それ、あなたの攻撃を食らってなかったら多分してないよ。
「では、倒しますねー」
なんか心なしかお姉さんの声が明るくなったような。歯石はお腹の中だけど、お姉さんが楽しんでくれたのならそれもよしとしよう。
そして、次は上の歯が始まった。近い、さっきより近い。お姉さんの目を見るけど、真剣そのもの。これってどこ見ればいいんだよ。そうだ、目を瞑れば。
!!!
当たってる。いや、押し付けられてる。なんか微妙に頭にやらかい感触が。そうか、上の歯は覗きこまないといけないから、さらに密着度が増すって訳か。もしかして、ここは天国なのか?
私はうがいが苦手です。かならず外出後にはするんですが、五回に一回くらいは、喉に水が流れこんでむせます。
前に知り合いで、ほとんど風邪やインフルエンザにならない人がいて、その人にその理由を聞いたら、多分、毎日、外出後に石鹸で手を洗ってうがいするからじゃ? との事で、真似したら、私も風邪を引きにくくなったので、うがいはマストなルーチンにしてます。




