始めての戦闘
「グギョッ!」
つい、僕はゴブリンと目が合う。
その縦長に瞳孔が開いた目はまるで猫みたいだ。
僕は一瞬、身がすくんでしまう。
ゴブリンが僕の方に走り寄ってくる。怯えているのを気取られたのだろう。
「ウァアアアアッ!」
僕は覚悟を決め、ハンマーを両手でしっかりと握り振りかぶる。
そして、ただ真っ直ぐ振り下ろす。それがあたる瞬間、不覚にも目を閉じてしまう。
ゴンッ!
鈍い音がして、すぐに目を開けると、ゴブリンは吹っ飛ばされていた。
「ツッ!」
軽くゴブリンの持っていた剣が僕の脇腹を掠めていたみたいだ。
僕は少し間合いをとる。
ゴブリンを見ると少し痙攣して動かなくなる。もう、大丈夫だろう。
僕はハンマーを片手で持とうとするが、手が震えて動かない。
「やったわねー!」
ルルさんが抱きついてくる。
「ご褒美よーっ!」
デルさんも抱きついてくる。誰へのご褒美なのか?
けど、2人のおかげで、震えは止まり何とか落ち着いた。
気絶しているのではなく、実際に動いているゴブリンを倒したと言うことは、僕にとっては大きな前進だ。ザップは始めて魔物を倒したときはどう感じたのだろうか。僕がザップなら何度も体験しているはずの事なのに、なんでこんなに萎縮してしまうのだろうか。
「ふーっ」
深く息をする。情けなかったけど、これが始まりだ。慣れていかないといけないと思うが、命を奪っているという事は忘れないようにしたい。
そういえば、脇腹を刃が掠めた気がするが、もう血が止まっている。これもスキルだろうけど、僕のスキルなのかそれとも装備品の何かのスキルなのか解らない。帰ったら人魚のナディアに聞いてみよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「僕1人で行かせて欲しい。もしなんかあったら援護よろしく」
ここは地下19層のフロアボスの部屋の前。
ゴブリン以外にも、大きな狼ジャイアントウルフ、犬の頭をした亜人のコボルト、あとゴブリンより一回り大きい亜種のボブゴブリンなどを倒しながらここについた。
攻撃される前に倒す。攻撃をかわして倒すを繰り返し続けここに来た。始めのうちはまだ身が竦む事もあり危うい所もあったけど、ゴブリン、コボルトよりは僕の方が遙かに身体能力が高く、筋骨隆々のホブゴブリンよりも、剛力のスキルのおかげか、僕の方が力が強かった。冷静になれば、勝負にすらならなかった。
デルさんが索敵で見つけて、僕が1人で倒す。それを延々と繰り返してきた。もう何度戦ったかは覚えていない。僕の服は返り血などでドロドロで、強い鼻を刺す血の臭いも感じなくなった。そんな汚くても、ルルさんデルさんの2人は僕に抱きついてくる。さすが冒険者だ。
ギギギーッ……
軋む扉を開けるとそこには王冠を被った、ホブゴブリンよりもさらに一回り大きなゴブリンが石で出来た玉座に座っている。その回りには数匹のゴブリンがかしづいている。
ゴブリンロード。
ゴブリンを統べる王はゆっくりと立ち上がると剣と盾を構え剣の切っ先で僕を指す。周りのゴブリンが立ち上がり僕の方に走ってくる。戦闘開始だ。
僕は両手でハンマーを握り、ゴブリン達をなぎ倒していく。
手下がいなくなり、巨大なゴブリンロードと対峙する。やる事は1つだけ。シンプルだ。ハンマーを真っ直ぐ振り上げ、跳び上がり体重と全筋肉の力を乗せて振り下ろす。ゴブリンロードは持ってた盾を頭上に掲げるが、僕のハンマーは盾をひしゃげてその腕をへし折りそれごとその頭部も押し潰した。
「おっしゃーーっ!」
僕は堪らずハンマーを突き上げてたけぶ。
「きゃーっ!ラパンちゃんザップ兄様みてるみたい!」
ルルさんが抱きついてくる。
「ラパンちゃん、最高!」
デルさんも抱きついてくる。
心臓が痛い位に跳ねている。興奮が冷めるまでの間、僕は祝福の抱擁を堪能した。