ザップ・グッドフェローの憂鬱 中
「なっ、なにもしてないよ」
僕はさっとペンチを隠す。
「何言ってんのよ。今、めっちゃ騒いでたじゃない。ザップ、今、何か隠したわよね。見せて！」
マイは料理してたんだろう。ヒヨコが書いてあるエプロンが可愛いらしい。いつもながらエプロン姿のマイはいいもんだ。ってそんな場合じゃない。誤魔化さないと。いかん、動揺してペンチの座標が定まらない。目視してないものを収納に入れるのは苦手なんだよ。数回スカる。もうちょっと右かな？
「はい、マイ姉様！」
うわ、アン、即座に僕を売りやがった。ペンチを奪ってマイに差しだしてる。マイが目をまん丸にしてそれを受け取る。なんでペンチで驚くんだ？ なんか小声でブツブツ言ってるよ。
「えっ、ぬく……これ……で……でもザップだし。ザップってドラゴンに踏まれても無傷だし」
何言ってるんだ？ 歯を抜くのにドラゴン関係ないだろ。確かにたまにアンに踏まれる事もある。けど、へなちょこドラゴンに踏まれてもなんともないのはマイも一緒だろ？
マイはペンチを開閉させてカチカチ言わせてる。エプロン姿にペンチは違和感だな。なんなら、それで僕の虫歯を抜いてくれないかなー。やってくれる訳ないか。ってマイには歯を抜くって言ってないな。マイはなにを抜くって思ってるんだ？ 抜く？ ぬく？ あ、あーっ！ ペンチでぬく？ もしかして激しく変な勘違いされてんじゃないか？
「マイ、アンにそれで歯を抜いて貰おうと思ってたんだよ」
笑顔がひきつってしまう。
「抜く？ 歯を？ そうよねー。ザップがペンチで抜いてもらうものって歯しかないわよねー」
なんかマイがおかしい。顔が赤っぽいし、目が泳ぎかけてる。こんなポンコツになってるマイは始めて見るような。なんか、僕がペンチで日常的に歯を抜いてもらってるみたいになってるし。なんのプレイだ？ 僕はそんなドＭじゃないよ。
マイは胸に手を当てて大きく深呼吸する。
「それで、なんでアンちゃんに歯を抜いてもらおうとしてるわけ？ 怒らないから訳を話して」
マイが復活した。よそ行きの笑顔から、多分、薄々察してる。ヤバい。なんて言おう？ 女の子のこういう時の怒らないって言うのは嘘だ。このあと怒りますよって意味だよな。
「それはですねー……ムグッ」
また言いつけようとしてるドラゴン娘の口を塞ぐ。ご飯を肉抜きにしてたまるか！
「イテッ」
噛みつきやがった。健康な歯が羨ましい。
「ご主人様はですねー。虫歯を抜いて、エリクサーで生やそうとしてるんでーーーーす」
うわ、小憎らしいな。いつも思うが、ご主人様って呼んでる割にはリスペクト皆無だよな。
「虫歯っ？ ザップ、何考えてるのよ。いっつもしっかり歯磨きしなさいって言ってるでしょ！」
やっぱ。やっぱ怒った……
あと６日で発売です！ 昨日一日で本にサインしまくりました。136冊。
ずっと動かずにサインしてたら、腕じゃなくて左足がやられました。体重がかかってたからでしょう。夜中に二回足が攣って悲鳴をあげながら起きました。苦労してサインしましたので、手に取っていただけたら、感謝なんてもんじゃないですm(_ _)m
間違ってました。あと五日ですっ！！
