姫と筋肉 筋肉の秋 3
「うぉおおおおおおーーーーーーん!」
まるで、扉が軋む音を百倍不快にしたような叫び声をあげ地面から奴が這い出してくる。
レリーフより少しだけ背が低い、黄金色のスケルトン。レリーフにかしづくように片膝立ちしてる。あ、最近見ないうちに腕の数が増えてる。六本あるよ。なんとレリーフは金貨を運ぶのが面倒くさいからって、変形合体させてスケルトンにしてる。ばかなんじゃないか?
「おい、サイフ、払ってやれ」
レリーフが顎でスケルトンに指図する。ヤバい。店内の視線を集めている。
「あー、みなさーん。大丈夫ですよー。安全なスケルトンですからー」
声をあげて周りの人たちを安心させる。
「安全? そんな事ないぞ、サイフはゴブリン百匹くらいは余裕で噛み千切るぞ」
ザワザワ。
どよめきが……席を立とうとしてる人もいる。いかん、僕の行けるカフェがまた減る!
「やだなー。面白く無い冗談いうなよー」
僕はレリーフに小声で話す。
「お前、しばらく余計なこと言うなよ。せっかくのフォローが台無しだろ」
そして僕はスケルトンの頭をなでる。
「ほーら、怖くない。怖くない」
即座に腕に噛みついてきやがった。けど、笑顔でもう片方の手で撫でる。血は出てないけど意外に痛いな。
「ペロペロしちゃダメだよー」
スケルトン、舌無いな。苦しい言い訳をしつつ、しゃれこうべにアイアンクローをかまして腕から外す。なんかミシミシいってるけど知らん。アンデッドらしいから死にはしないだろう。
まあ、席を立とうとしてた人も戻ったから問題ないはず。
「サイフ、遊んでないで、金貨一枚払ってやれ」
これが遊びのつもりなのか? 僕は防御力激ツヨだからこんな骨程度に噛みつかれても赤くなるだけだけど、一般市民だったら腕千切れてるぞ。なんかレリーフって自分のしもべたちが弱いと思ってるフシがあるからな。
「おい、コイツの名前サイフって言うのか?」
「ああ、サイフ代わりだからサイフだ」
「おいおい、サイフってお金を入れるものだろ。入ってないじゃないか剥き出しじゃねーか」
「細かい事言うな。名前はわかりやすい方がいいだろ」
コイツはペットを飼っちゃいかんタイプだな。犬にはイヌ、猫にはネコって名前つけるんだろうな。もし子供が出来たらコドモって名前つけそうで怖い。
サイフが手を差しだしてくる。咄嗟に手のひらを出したら、小指の骨を毟って置いてくる。骨、金色の骨だ。怖ぇよ。ていうか、これ金貨一枚分だと思うけど、このあとどこで使用出来るんだ?
「安心しろ。十分経ったら、元の金貨に戻る」
「安心できねーわ。十分も戻んないのかよ」
ふと疑問がわく。
「お前、お釣りはどうしてんだよ」
「ほら、机の下にいるだろ。ネコとイヌだ」
「え?」
机の下を見ると、動物の骨がうずくまってる。銀色と銅色。銀貨と銅貨か? 骨だけだとどっちが犬か猫かわかんねー。確か王国では貨幣をいじるのって犯罪じゃなかったか? レリーフを豚箱にしょっぴいて欲しいものだ。
あと、10日で発売です。楽しみです。