姫と筋肉 筋肉の秋 1
僕の名前はラパン・グロー。冒険者だ。いつもはレストランのウェイトレスをしてて、隙間バイトで冒険者をしている。
今日はなぜか色々昔の事を思いだす。空に広がる刷毛ではいたような、薄い高い雲がなんか哀愁を感じさせるからだろう。
僕は元々は東方諸国連合、都市国家の集まりのうちの一つ、魔道都市、アースウィンドファイヤー、通称アウフの第一位王位継承者、いわゆるお姫様だったんだけど、いとこの兄様に丸投げして、王国で暮らしている。
幼い時に魔獣に襲われて右足と右目を失って引きこもっていた。それをザップがちゃっちゃと癒してくれて、その理由付けのために迷宮都市へとエリクサーを探すふりをしに行く事に。そこで暗黒竜に襲われて、ザップと魂が混じってしまって、ザップの魂が戻った今も、ザップの記憶とスキルを継承してしまった。お蔭で強くはなれたんだけど、どうしても自分の事を『私』とか『あたし』とか言えないんだよね。なんか照れる。ザップって、人前ではかっこつけてイキって『俺』って自分の事呼んでるけど、心の中ではめっちゃ気弱で一人称『僕』なんだよね。うつっちやった。
なじみの町から王都へと向かい、あと少しで城門ってとこで、奴を見つけた。自称ダークエルフの、どこからどう見てもオーガやリトルジャイアントにしか見えない二メートル越えの巨漢だ。腹ばいで、丸太のような腕を剥き出した体がヘコヘコと上下している。その見た目に反した動きの弱々しさは、かなりの時間、奴が腕立て伏せしてた事を予想させる。街道からは外れてるけど、朝は往来が激しいからもっと目立たないとこでしろよと思う。気が弱い人とか、ここ西門を避けるんじゃないか? 僕も迂回するか迷ってる。けど、レリーフ如きのために迂回するなんて時間の無駄だよな。見てないことにして、隣を歩いていく。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト……」
あ、レリーフ、ダウンしたか。動かなくなった。ラッキー。それなら僕には気付かないはず。どうでもいいけど、レリーフは大胸筋に名前をつけている。右がケイトで左がスザンナだったと思う。『人間は裏切る事はあるが、筋肉は裏切らない。名前を呼び愛でてやると必ず応えてくれる』。奴の言葉だ。確かに一理あるけど、同感は全くできないから、ずっとボッチでいればいいよ。
「スザンナーーーッ!」
大声出すなよ。びっくりしたじゃねーか。レリーフはさらにワンプッシュすると、力尽きて転がる。その顔がこっちを向き、ちょうど目が合ってしまった。
「ラ、ラパン。すまない。体がもう動かない。ポーションを飲ませてくれないか?」
「やだよ。甘えるな。自分で飲め」
あ、いかん。絡んじまった。なんか最近、店の仲間がレリーフと仲良いってからかってくんだよね。だからできるだけ奴とは一緒にいたくない。
「金か? 金が欲しいのか?」
え、お金払ってくれるの? なら話は違う。仕事になる!
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