第二十一話 荷物持ちモフる
「久しぶりに、人間に戻った気分だ」
実際、ミノタウロスの腰巻きだけを身につけて、焦げた肉や固い不味い肉を食べる生活。誰とも話せず、ただ魔物を狩り続ける。獣と何ら変わらなかったと思う。
違いは、ただ、復讐心だけを燃やしていた事だ。
マイと会ってまだ一日もたたないが、人間に戻れた気がする。
水を収納から出して食器などを洗う。
「ザップ、水浴びしたい」
マイが顔を赤くして僕を見る。どうしたんだ?
「駄目だ。ここで水浴びしたら服が乾かない。49層まで我慢しろ」
「ううー……」
マイには、顔と頭を洗うだけで我慢してもらった。エリクサーで病気が治るかは解らない。風邪などひかれたら厄介だ。
次は地下47層に降りる。ここも大したことない。ただヘルハウンドの数が増えるだけだ。ここも危なげ無く全てのヘルハウンドを狩り尽くした。
ここでも出来るだけマイにとどめを刺させる。収納の中のヘルハウンドとヘルハウンドブレスが増えた。ありがたい。
赤と青のポーションが幾つかと銀が一つドロップした。またマイに飲ませる。
「体が軽い。敏捷のポーションね!」
マイがまた喜んでる。本当に効果あるのだろうか?
次は地下48層。今、階段を降りている。
ここは厄介だ。
ここも地下44層と同じで魔物達が流れる。どこにいるのか解らないし、どこで戦闘になるかも解らない。ここでのマイのレベルアップは無しだ。出来るだけ挟撃されない最短ルートで下へ向かおう。
「ザップ。あたしにも武器を貸して」
「解った。邪魔になったら捨てろ」
ミノタウロスの武器で一番軽いマイの斧を出してやる。普通に持てている。護身用くらいにはなるだろう。
地下48層を進むが、ヘルハウンドは全く出てこない。拍子抜けだ。もしかして先客がいて狩り尽くしたか?
もしそうだとしても戦闘の跡が無い。ヘルハウンドの死骸も無い。何故かはしらないが、ダンジョン内の死骸はいつの間にか無くなる。だが、かなりの時間が経つまでそのままだ。
不審に思いながら進む。次の部屋の次は階段の部屋だ。警戒しながら中に入る。
暗い部屋の中に無数もの赤い光が浮かぶ。
「ザップ! モンスターハウスよ!」
モンスターハウス。それは迷宮の中でもかなり厄介な罠で、普通分散して発生するはずのモンスターが、階層の中の一カ所に集中して湧くというものだ。数の前には無力。これで幾組もの有名な冒険者パーティーが命運を絶ったと聞いた事がある。
僕は、全力でマイを元来た通路の方に突き飛ばす。鍛えたので怪我はしないだろう。
火球の幾つかは収納にいただけたが、多数は僕に命中する。
「ザーーップ!!」
マイの叫び声が聞こえる。
自分自身にエリクサーをかける。温存してたら死んでしまう。
ゴオオオオオオオオゥッ!
僕は全方位に火炎放射のようにドラゴンブレスを放つ。一通り焼き尽くしたあと、動くものを手当たり次第ハンマーでぶん殴る。しばらくすると、動くものはいなくなった。なんとかなったか……
通路の方に戻ると、マイが駆け寄って来た。
「ザップ! 無事なのね! よかった!」
服はあちこちがほつれ、顔にはあざが有る。その後ろには首を刎ねられたヘルハウンドが一匹横たわっている。
危なかった。討ちもらしがいたのか! 武器を渡しててよかった。
「やったわ! あたし一人で!」
マイはその場に崩れ落ちる。エリクサーをかけてやる。
「よくやった」
僕は座ったマイの髪が乱れた頭を撫でてやった。
少し触れた猫耳はもふもふだった。
読んでいただきありがとうございます。
2023.8.29 モンスターハウスの説明を追加しました。