異界
「ここは、どこだ?」
辺り一面真っ白。何も無い。声に出してみたのは、誰かいないか。声がおかしい。とても良く通る。感覚もおかしい。なんか、フワフワしてる。
僕はカナンに打ちかかった。それがここにいる。転移? マイたちみたいに。どこなのか? 熱くも寒くもない。いや、温度を感じてないんじゃ? もしかして、ここは収納の中? カナンが咄嗟にやったと考えるなら、それが自然だ。どうやったら出られる?
ん、なんだありゃ? 豆? 違う。豆にしてはデカい。丸っこくて、トゲトゲな帽子みたいなのがついてる。どんぐりだ。言霊使いが落としたどんぐりは割れてた。もしかして、誰かが修復したのか?
ゲッ! どんぐりがどんどんと大っきくなる。スイカくらいに大っきくなった。もしかして夢なのか? ん、割れた。中から豚? 子豚か? 豚がどんぐりの中身を食べたのか?
「また、まみえるとはな」
ゲッ、ブタがしやべった。って、言霊使いも豚面でしゃべってたな。もしかして僕が知らないだけで豚ってしゃべれるのか? 今までさんざん食ってきたのがモヤモヤするな。
「なんじゃ? 変な顔をして。私が生きてるのが不満か?」
「いや、違う。豚ってしゃべるものなのかと思ってな」
こいつからは強さ的なものを感じない。危険は無さそうだと思う。
「面白い奴だな。私が特別なだけだ。それに私はヤコトヌシ。豚ではない」
「いや、どー見ても豚だろ」
「私は元々は山の神、イノシシの神だ。その毛の色が抜けただけだ」
じゃ、豚だろ。豚とイノシシ違いって家畜か野生かくらいで、交配もできるって聞いた事がある。イノブタってのもいるしな。
「で、なんで生きてんだ?」
「カナンと呼ばれている娘が私を癒してここに入れた。私の本体は今やちっぽけな種子。お前が見てるのは幻だ」
割れたどんぐりの事なんて気にもかけてなかったけど、まさかカナンが拾ってるとは。けど、なんでカナンはこいつを助けたんだ?
「猛る心はお前が刈り取った。私はお前に興味がある。少しだけ私の話を聞け」
子豚に命令されるとなんかむかつくな。今の僕って端から見ると、豚としゃべってる豚愛が溢れる変わった人なんじゃ?
そして、何回聞いても名前を忘れてしまう、言霊使いが語り始めた。
彼は東方和国の山の神として発生し、人間の頼みごとを叶えるのに協力してるうちに信仰の対象となった。始めは望みを叶える手助けくらいしか、例えば狩りの獲物を引き寄せたり、森の果実がいっぱいなるようにしたりしかできなかったのが、力を得て、彼が望まれることを言葉にすることで実現しやすくなり、さらに崇められて数百年経ち、力をつけることで、彼の言葉が現実になるようになったそうだ。
和国は騒乱の国、その戦乱を収めたのが今の国。太陽神と彼の力を借りて統一されたそうだ。だか、彼と彼の眷属を待っていたのは裏切り。拠点を崩され、少数の人間と共にここに逃げ延びたそうだ。そして力を溜めまずは和国を滅ぼすために。
「もう、今となってはどうでもいいことだ。だが、お前も同じ目に会わんとは限らんぞ。力がいるのは、争いがあるから。争いが無くなったら、お前だって存在価値を失う事だろう。そうなったお前を周りの人間はどう思う事か?」
まあ、確かに今は魔物やこいつのような邪神がいるから戦う力は必要だけど。
「和国では今や、大きな街で刀を帯びるのは犯罪だ。戦乱時には逆に刀を帯びてなければ身ぐるみ剥がされてたというのに。戦乱時の刀も今の刀も同じもの。ただ状況が変わっただけ。昔は心体を預ける大事なもの。今は不用意に人々を威圧するもの。お前が刀だったらどう思うか? 人間って身勝手なものだろう」
「そうだな……俺が刀だったら、鋳つぶしてもらって鍋にでもしてもらうさ。和国では刀がなくてもいいくらい平和になったんだろ。いい事じゃねーか。状況が変わったなら、自分も変わるしかねーんじゃないのか?」
「けど、私は変われない。いや、変わりたくないのかもな。そんなに器用な事はできないな。話せて良かった。お前とは二度と会わない。今すぐに、ここから出たいと念じろ」
出たいと思ってみる。
景色が変わる。僕はなにもないとこに棍棒を振り下ろした。
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