荷物持ちは荷物持ち
「歯を食いしばれっ」
僕はハンマーを振り上げ走りだす。昔よくダニーに言われてたセリフが口をつく。一度は人に言ってみたかったセリフだ。昨今もはや化石になりつつある言葉だもんな。うわ、近づくとよくわかる。デカいな豚頭。こりゃジャンプしねーと届かねーな。僕は後ろまでハンマーをそり返し跳び上がる。
「ザップ、この娘を叩き潰せ!」
豚頭が掴んだカナンを差し出す。
「やなこった」
僕は振り上げたハンマーを叩きつける。
ドゴン!
過たず命中。感触良好。望み通り叩き潰してやった!
豚頭の巨人、言霊使いを!
ハンマーは頭を潰すのみのらず、大きくえぐり、その体を両断する。なんか金剛とかなんとか言ってた割には貧弱だな。いや、僕のハンマーが企画外なだけだ。なんか絡みつくような感触、間違いない。黒いもや、魔王力の発露が精神体的なものにもダメージを与えてるんだろう。カナンが豚の腕を振り払って、残った体を蹴って回って着地する。
「なぜ、なぜ、お前は言う事を聞かない?」
潰れて二つになった肉塊の口っぽいとこから声を出してる。グロいな。
「人に言われてなんかすんのは嫌いなんだよ。自分の好きにやらせてくれ」
「我が力は絶対。紡いだ言の葉は結果なはず……グボッ」
おいおい、まだ喋れるのかよ。
「言った事が現実になる? ふざけんな。そりゃ楽しい事だけにしてくれ」
「なぜ? なぜだ?」
「お前、俺が誰か知らないのか? 俺は荷物持ち。生きてるもの以外、なんだって収納に入れて運べるんだよ。お前の言葉使いの力も入ったよ」
「そんな馬鹿な……まだだ、まだ滅びんぞ」
ひしゃげて潰れた頭からまだ声がする。どんだけしぶといんだ。その辺りから吹き出した血がカナンに降り注ぐ。不自然だ。血がカナンを狙ってるように見える。カナンはポータルを出して血を収納に入れるが、そのポータルをかわして血が結構かかる。
「うえぇ、気持ちわる……気持ち悪いのはこっちの方だ。お前、男なのに女の格好してるのか……おい何いってるんだよザップ。体も女だって……私の追跡を降りきるために女になってたのか……えっ、ザップも僕を探してたの?」
なんかカナンが一人で会話してる。しかも内容が支離滅裂だ。表情も、言葉が途切れる度に変わっている。今まで通り、ちょっと穏やかな表情から、きつめの表情に交互に変わってる。
「おいおい、俺は何も言ってないぞ」
「じゃ、この声は誰……私だよ。お前たちが言う所の言葉使い。古き神の一柱……ええー、もしかして、僕、乗っ取られかけてるの……そうだ。時間が経てばお前の体は私のものになる」
まじか、さっきの血を使ってカナンに乗り移ったのか。ハンマーで精神体も結構削ったと思ったが足りなかったか。けど、カナンに憑依してる状態でダメージを与えたらさすがに成仏するだろう。
「悪いな、カナン。世界と俺の平和のために死んでくれ」
僕は魔王力を込めてハンマーを構える。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




