トレーニングオンアイス 前
「うおぉ、寒い」
何も考えて無いと思ってる事が口に出るもんだな。
「ザップさん、今日は集中が足りないんじゃないですか?」
目の前のエルフの麗人のデルが眉を顰める。アイツ、あんなに瘠せてるのに寒く無いのか?
今、僕らは氷結した湖の上に居る。久しぶりの『デル先生の格闘技講座』オンアイスだ。メンバーは今回は僕とレリーフとパムだけだ。炬燵ドラゴンのアンは導師ジブルに作って貰ったかまくらの中の炬燵でミカン食っていて、マイは見学だ。遠くで手を振ってる。さすがに氷の上で道着だけというのは嫌だったらしい。僕も嫌だよ。
何か最近は教える事もネタ切れしたのか、デル先生の格闘技講座は四季折々の自然の中でトレーニングをするというものになってる気がする。今回は冬という事で、何故か氷の上になった。氷の上で戦う事になった時のためにとか言ってたけど、どうすればそういう状況になるのか見当もつかない。そもそも何と氷の上で戦うんだ?
氷の上で準備作業体操をして、基礎練習をしたけど、氷の上って本当に滑るんだな。デル以外の僕たちは既に何度も転倒している。そして、寒さ暑さに比較的強い僕でさえ、痛い。裸足の足の裏が冷たいというより痛い。それに転んだ時に濡れた道着が冷たくなってきて、最早拷問だ。
「それでは組み手を始めましょう。誰から来ますか?」
デル先生はそう言うと僕の前に立つ。誰から来ますか? って言ってるのに僕と戦う気まんまんじゃないか。
「はい、はい、オイラから行きます」
パムが言うなり、デルに高速で迫る。さすがパム。盗賊なだけある。よく氷の上であんなに加速できたな。けど、デルにヒラリとかわされて、そのまま遠くまで滑っていく。
「氷は滑ります。ですから、素早く動くとあのように制御できなくなります。どうやって戦うのが最適なんでしょうね」
デルが楽しそうに微笑む。この人本当に戦うのが好きだな。うーん、どう戦うのか? って言われても思いつかない。正直立ってるだけでやっとだ。気を抜くとコケる。
「先生、分かりました」
マッスル巨人のレリーフがデルに迫る。一歩一歩踏みしめて力強く進んでいく。多分、デルを捕まえて組み合って力技で投げたり寝技に持ち込む積もりだろう。僕にも氷の上で戦う方法はそれくらいしか思いつかない。
「はうっ!」
レリーフがデルにローキックを食らって滑ってデルに背中を向ける。
「ガッ!」
背中に蹴りを食らってレリーフは滑って行く。おかしいな。デルは明らかにレリーフより体重が軽いはず。だから、ツルツルの氷の上でレリーフを蹴ったらデルの方が滑っていきそうなもんだが?
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