妖精の力
「ラパンちゃん、もう一度あの布見せてくれないかな?」
赤髪の戦士アンジュさんが口を開く。
「やっぱり、気になって鑑定のスクロールを王都で買って来たのよ」
巨乳魔法使いのルルさんが、懐からスクロールをだす。
ん、王都?
「あ、あの、王都って遠いですよね、ルルさんってこの前ここにきたばかりですよね?どうやって往復してるのですか?」
「え、走ってだけど?」
「ちょっと待って下さい。馬車で数日かかるところに走ってなんて無理ですよ。からかわないで下さい」
「ブッフフフフファッ!」
僕の横で妖精が腹を抱えて笑い始めた。
「何よ、ミネア!」
「あんた、なに寝ぼけてんのよ、ルルはね、あたしたちの中では一番足が遅いのよ。ちなみに一番速いのはあんたよ、いろいろ思い出してったら人外に速いわ。王都まで数時間よ!」
「ちょっと、ミネア、聞き捨てならないわね。あたしも修行したんだから短距離だったらあんたよりも速いわよ!」
ルルさんがミネアにかみついてくる。
「じゃ、勝負ね、外に出るわよ」
僕達は、ルルさんとミネアについて外に出る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは、ここから店までで、どんな方法を使ってでも先についた方が勝ちだ。妨害は禁止」
外に出て通りを結構進んだ所でアンジュさんが2人を並べる。今は通行人もいない。ミネアは人間スタイルになっている。ゴール地点には、リナちゃんと人魚が待っている。
「ミネア、あたしがただ座って本ばっか読んでると思ってたでしょ、何事も頭よ頭がいい者が最後には勝つわ!」
ルルさんが不敵に笑う。そして、両手を地につけた姿勢で構えて呪文を唱える。
「肉体強化、風の加護、オールグリーン」
しゃがんでブツブツ言ってる様は少し怖い。
「ルルは準備完了みたいだけど、ミネアはいいか?」
「ちょっと待って。出でよゴールデンワイバーン!」
ミネアの目の前で黒い霧が集まり形を成す。丁度馬くらいの大きさの羽の生えた金色の爬虫類が現れる。シャープな形で格好いい。それの背にミネアは女の子座りで乗る。横で足を揃えて、左手で軽くワイバーンを掴んでいる。
「あんた達、迷宮でレベルアップしていても身につかない力があるのよ。妖精の秘術、幻獣召喚よ!」
僕は我慢できず駆けより、ゴールデンワイバーンをペタペタ触る。ひんやりしてて気持ちいい。アンジュさんもどストライクだったみたいで、恐る恐る触れている。
「か、可愛い……」
つい口から漏れる。
「ちょっと、トカゲのどこがいいの?この体勢きついんだから、早くスタートしてよ」
ルルさんが抗議する。
「すまない、解った」
「ごめんなさい」
僕達は離れる。
「では、用意、スタート」
アンジュさんが手を振り下ろす。
「イグニッション!ファイヤーボルト改、ファイヤーバーナー!」
ルルさんは、まるで矢が放たれたかのように跳び出した。その両手からは炎が噴き出している。それを推力に前屈みで走る姿は決してエレガントではない。ローブが捲れあがり、僕達からは白いパンツが丸見えだ。勢いで転倒しないように、シャカシャカ足が動いている。何処に頭使っているのだろうか?決して頭良くは見えない。
「じゃいくわよ!」
ミネアがワイバーンの首筋を軽く叩く。
ブワサッ!
ワイバーンは皮膜のような羽を広げて跳び上がる。そして、ルルさんを一気に抜き去り店の前を通ると、そのまま飛び上がり遠くへ消えて行った。
「ミネアの勝ち?」
僕達の回りに人が集まってくる。金色の馬が出たとか言っている。まあ、遠目には大きさ的に馬だったな。
「あ、そうだ、布の鑑定に来たんだったね」
アンジュさんに促されて店に戻る。アンジュさんの中でも今の事は無かった事になったみたいだ。
良かった、あのままワイバーンを触り続けてたら、制御出来てなさそうだったから、僕らのどっちかは頭でも囓られていただろう。