森人の国 26
「ザップに会うまで、あたしが仲良くなった人たちはみんな死んだの。魔物や盗賊に殺されたわ。サーカスで良く行ってた開拓地の村に仲良くなった女の子が居たわ。けど、そこの村はゴブリンの群れに滅ぼされた……」
そっか、マイは天涯孤独だったのか……
僕も似たようなものだったけど、妹が居た。妹が居たから頑張れた。妹が居なかったら、僕は盗賊崩れになるか、のたれ死んでただろう。
僕と違ってマイは一人っきりだった。
けど、マイは出会った頃から明るかった。全てを失っても僕みたいに恨むのではなく、明るく前向きだったのはマイの根底にある美点だと思う。それが無かったらもしかしたら、あの時一緒に居ようと思わなかったかもしれない。迷宮で途中で別れてただろう。
なんとも言えない。マイがどう思ってるのなんて僕にはわからない。物事の捉え方は人それぞれだから。昔何かで聞いた話で、手のひらに氷を乗せて、それが冷たくて心地よいって感じる人も居れば、冷たくて気持ち悪いって思う人もいる。気持ち悪いって思ってる人に、それは気持ちいいはずだって強要することは出来ない。
まあ、けど、言わないといけない事は分かっている。
「マイ、僕は死なない。昔マイが仲良くなった人みたいに居なくなったりはしない。まあ、マイが愛想尽かして居なくならない限りはな」
「うん、ありがとう。ザップ」
満天の星の下、露天風呂で僕らは見つめ会う。浴槽にお湯が流れ込む音だけがする。ここは男なら行くべきだ。思いの丈を口から出すべきだ。マイは過去を少し忘れて前に進めたはず。僕たちな関係も少し前に進めるべきだ。
僕はマイに近づきその肩を優しく掴む。僕とマイは見つめ会う。僕とマイの顔が近づく。マイは目を瞑る。僕の心臓の鼓動が早鐘のように荒れ狂う。
ザバーン!
大きな水音。なんの音だ? マイに集中してて接近に気づかなかった。
げっ、さっきのゴーレムが帰って来てる。人の空気読めない奴だな。あ、ゴーレムだもんな。
「お取り込み中すみませんが、私のエネルギーはここで補充してます。エネルギー切れになりかけたので、ご一緒させてください」
ゴーレムは浴槽に腰掛ける。ザバーンとお湯が大量にこぼれる。僕らはその波に攫われそうになる。
「あ、お気になさらないで。私は木石のようなものですので、ストーンゴーレムなだけに」
どこが面白いのか分からないような事を言ってやがる。やたら人間臭いゴーレムだな。気にしないでって言っても気になるよ。せっかくなんかいい雰囲気だったのに台無しだ。ゴーレムと混浴なんてこっちから願い下げだ。
「じゃ、帰ろっか」
なんかマイが僕から目を逸らして言う。照れてるのか?
「ああ」
そう言えば死んだじいちゃんが言っていた。女の子には行ける時に行けと。その時はオッケーだと思っても次の日はそうじゃない事もあるからと……
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