森人の国 24
「静かよねー」
マイが呟く。さっきまで石巨人が歩いててうるさい事この上なかったけど。
「そうだな」
今は水が落ちる音しかしない。けど、何考えてんだエルフ。ゴーレムを衝立は無しだろう。けど、今みたいに自動で取ったり付けたりできるっていうのは便利かもな。実際、今、広々とした露天風呂を楽しんでる訳で。それに最初から混浴だったら、マイが嫌がるか僕がヘタレてただろう。結果オッケーだな。
隣にマイが浸かってる。見たいけど絶対に見ない。変な流れになりそうだ。僕はこう見えて古風なとこがある。やっぱりこういうのは、好きだって告白して、了解をもらってからステップアップしてくべきだ。とは言え一緒にお風呂入ってるのに何言ってんだって感じではあるが。
うーん、何話せばいいんだ。マイも話しかけて来ないって事はあっちも同じなのかもしれない。
明日からの相撲大会本戦の事? 絶対に今は場違いだな。
今まで好きだった人や、つき合った事がある人との話? 僕は無いし、マイの、そう言う話は聞きたくない。昔、彼氏がいたとかそう言う話を聞いたら、そいつをぶん殴りに行きそうだ。
食べ物の話。それはアンだ。そこは食い道楽ドラゴンの領域だ。
困った。マイに振るべき話が思いつかない。
そもそもマイが何が好きでどういう話題が好きなのかって聞いた事も無いし話した事もない。僕って自分が思ってるよりダメダメだなー。
「ねぇ、ザップ。何かお話しよ。ザップはどんな話したいの?」
若干マイの声が上ずっている。そうなんだマイはこういうヤツなんだ。いつも自分より他人、いつも一歩下がって人が楽しむのを見て楽しんでいる。そういうとこが好きなんだけど、その遠慮のおかげか僕はマイの事を何も知らない。
出会った時は荷物持ちをしてて、それまでは色々旅をしてた事くらい。僕は勇気を出してマイを見る。マイは髪の毛をかきあげる。猫耳の下には僕と同じ位置に同じ耳。猫耳の下はのっぺりとしてる訳じゃなかったんだ。僕はそんな事さえ知らなかった。
「どうしたのザップ」
マイも僕を見る。マイの顔は心なしか赤い。
「そうだな。マイが話したい、話してて楽しい事を話そう」
「ええーっ、あたしが楽しい話? それってザップは退屈なんじゃないの?」
「いや、なんていうか、今で十分楽しいよ。なんかいつも俺ばっかり話してる気がするから、マイの話を聞きたいんだ」
「ええーっ、あたしの話なんかつまんないよ。ありきたりだし、面白い話なんか出来ないよ」
「いや、嫌じゃなければ、マイの話を聞きたいんだ」
「じゃ、いいけど、何の事がいいの?」
「そうだな。昔の話とか」
そして、マイはたどたどしく話し始めた。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




