森人の国 10
「これが最後の勝負だ!」
イケメンエルフが土俵に再びあがる。面倒くさいから張っ倒してお終いにしようかと思ったけど、ギャラリーもいるし、他の誰よりも吹っ飛ばされたのに立ち上がってきている心意気に免じて、胸を貸してやるか。正直、エルフ共につけられた汗と泥でベタベタで気持ち悪い。早く風呂にでも入りたい。
「おう、かかってこいやー」
イケメンエルフが低い位置から体をぶつけてくる。それを正面から受け止める。
ドウッ!
肉と肉がぶつかる鈍い音がする。いい立ち合いだ。だけど、僕はこれしきではびくともしない。右手でエルフのまわしを掴み、思いっきりぶん投げる。エルフは抵抗するが、押しきられそのまま地面を転がって土俵から落ちる。
「まだ、まだだ……」
エルフは土俵に這い上がろうとして項垂れて動かなくなる。死んじゃ居ないよな。
進行役をしてたエルフのお姉さんが、拡声器を手に土俵に上がってくる。
「なんと、なんと、もはや化け物。特別枠の選手が、長時間に渡って、我らの精鋭たちを退け続けました! 誰か、誰かこの魔王を倒せる者は居ないのでしょうか!」
うーん、魔王は言い過ぎだろ。けど、もうエルフの男共で動ける奴は居ない。怪我してる人は居ないと思うが、みんながみんな疲労困憊だろう。
「私が相手だっ!」
土俵に駆け込んで来たのは、1人のエルフ。サラサラな金髪に、美形のエルフの中でも格別に整った顔。デルだ。
「おいおい、いくらなんでもそりゃナシだろ」
さすがに衆人環視の中、女性と相撲を取るのはちょっと。
「父上も、兄上も不甲斐ない。かくなる上は私がかたきを取る!」
「父上は分かるけど、兄上も居たの?」
デルはイケメンエルフを指差す。
「従兄弟だ。兄上と呼んでいる」
「え、じゃソイツが本戦で優勝したら、結婚したの?」
「まあ、従兄弟とは結婚できるが、こんな軟弱者とは私は結婚するつもりはない。確かにザップさんは強い。けど、総勢で数時間戦って、1人も土をつけられないのは、情けなさすぎる」
「おいおい、言い過ぎだろ。コイツらは強かったぞ。一瞬でも気を抜いてたら、俺もやられてたぞ」
「問答無用! ではいざ参る!」
デルが低い位置からぶちかましてくる。おっと、やっぱコイツが一番強いんじゃないか? デルが前に出てきて抱き着いて、右手で僕のベルトをとる。い、いかん、デルの胸が押し付けられている。慎ましいけど、柔らかいものが……
ドサッ!
そう思った瞬間には僕は土俵の上を転がっていた……
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